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第58話【僕のこと、家のこと、かあさんのこと】

 まるで母さんを知っているみたいなそんな表情、身内を褒められた人みたいな感じになっている。喜耒さん、母さんの事、知っているのかな? 


 母さん自体は、なんでも自分で言うのもどうかとは思うけど、1人でダンジョンに通っていた言うなればぼっちダンジョンウォーカーだったって言っていたから、あまり知っている人はいない筈らしいけどね、家帰ったら聞いてみよう。


 で、椎名さんは、そりゃあもう驚いている、って言うか本当に驚いて両手を口の前に添える人って初めて見た。目なんてもうまん丸に見開いているしね。こっちもある意味、母さんを知っているなあ、って思った。なんだろう、親の仇とかかな、僕子供だけど、無関係でいいよね、こっちも今度機会を作って詳しい話を聞いてみようと思った。


 この2人はそんな感じだったんだけどね、葉山さんだけは違ってたんだ。


 少し、うつむいて、何かを考え込むような、そんな仕草をして、髪を書き上げる時に、僕の視界に入って来た葉山さんの横顔はまるで別人の顔をしていたんだ。


 それは葉山さんの顔で、葉山さんの表情で、葉山さんの唇は確かに笑みの形作る別人に見えたんだ。


 一瞬の笑う唇が動く。


 それはとても短い言葉、読唇術なんて知らない僕でもわかった。その時彼女の唇は、「いた」って、そうその意味は見つけたって意味で動いたのが僕は直感でそう思えた。


 「え? どう言う意味?」


 って思わず聞いたら、


 次の瞬間にはいつもの葉山さんに戻っていて、


 「あ、ごめん、ちょっと考え事してた、厳しかったんだね、真壁君ち」


 って普通な感じで、さも委員長って入り方で、人の家庭の事を言及してくれる。痛くも痒くもない程度に軽く差し障りなくだ。


 「うん、まあ」


 「わかるよ、私の家も厳しかったから、ダンジョンに入る子供を持つ親はどこも同じだね」


 って教室で僕に普通に話しかけるみたいな笑顔に戻ってそう言った。


 その顔が、さっきの別人に見える葉山さんとは全く違っていたものだから、図らずも僕はあの別人に見えた葉山さんの顔がありえないよねってそう思ってしまったんだよ。ああ、僕の見間違いか、って感じでね。


 そのくらいいつもの彼女とはかけ離れた表情と言うか顔だった。


 それは僕としては見間違いってことにしておきたかったのかもしれない。


 だって、あれは敵の顔だったから。


 多分、今まで出会ったことがないくらい凶悪な敵。


 気がついたら僕、剣を握ってたんだよ。


 怖いとか、ビビってるって言う状態の先、とてもシンプルで原始的は生存欲求。


 まったく相容れないものが急に僕の横に現れた感じだったんだ。


 いやいや、そんな事。


 葉山さんが僕の敵ってありえないでしょ。


 だから、僕はいつもの笑顔の方の葉山さんを信じてしまっていたんだよ。いや違う、こっちが葉山さんだよって何かにしがみつきたかったのかもしれない。それでも多分、この心の奥に現れることがない体の底に何かを刻みつけた。それはやがて来る凄惨な悲劇に備えるために、僕の体の方はすでに準備を開始していたのかもしれない。


 僕らは、新しい陣形を組んで、新たに加わった椎名さんも一緒に、残りの2箇所を回った。


 1階登った小部屋の方はスカだった。


 本当に何もなくて、ちょっと隅にゴミが落ちていたくらい。失礼しました。と部屋を出て直ぐに最後の部屋に向かう。


 そして、またエレベータの方に戻って階段で直接そこから5階層降りて、なだらかな直線、割と奥まった最後の部屋に行く。


 なんでも、葉山さんの言う話によると、いつもは何もない部屋、モンスターも出なければ、宝箱も無いって話らしい。


 「ちょっと奥まってますから、休憩所にもなりません、待ち合わせなら他の場所を使うので、もし何かをしようと準備するなら、普段は誰も立ち寄らないあの場所は絶好の場所かもしれません」


 と椎名さんも言ってる。


 多分、僕に向かって話しかけてくれてるんだろうけど、なんで敬語なんだろう? 多分、この場所では一番の年上のはずなのでは、と考えてしまっている僕がいる。


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