第45【上空のガーゴイル】
葉山さん一人のおかげで、随分と具体的にこれから行動するって事の内容が見えてきた。
「では、早速近いところから当たってみよう」
そう喜耒さんが言うと、葉山さんも、
「もう、着くよ、準備して行こうか」
と言う。
事もなく、この部屋はエレベーターとしての役目を果たし、目的地へと到着した。
中階層、地下20階、僕が体験する最高深度だよ。
扉が開くと、当たり前のことだけど、目の前に広がる光景は全く異なるものだった。
何より、室内に入ってくる空気の温度と湿度がぜんぜん違う。少なくとも僕にとって初めて感じる空気で、僕の知っているそれよりも大分重く感じた。
よくよく考えてみると、ダンジョンもここに極まって来ている感じだする。
そうだよね、この辺からはシャレにならないくらいのモンスターとかも普通に現れるんだ。
それになんか落ち着かない。
普通にモンスターが出るな、って場所だからだろうか、いつもの春夏さんとか角田さんとと一緒にいる安堵感がまるでない。それになんだろう、そのこととは別に僕は少しここに来た事を後悔している気がした。自分のことなのに気がしているって言う言い方も変な感じだけど、本当に異質で物足りない、怖いとかビビっている訳じゃないよ、なんか心の何処かが萎れてしょんぼりしている感じがするんだよ。この感情はちょっとうまく表現できない。
「真壁くん、この深さは初めて?」
と、開いた扉の前で立ち尽くす僕を見て葉山さんがそんな風に訪ねてくる。怖いって効かないのが彼女らしい。
「うん、そうだね、初めてだよ」
進まない僕らはまるで他のダンジョンウォーカーからみると川の水面から顔を出した岩か石のように、その流れに乗らずして佇んでいる。
「大丈夫、後方からきちんと支援するから、大型だ出たら、私も前衛に入るし、喜耒さんもいるから心配しないで」
と声をかけてくれた。本当に優しいな葉山さん。気遣いっていうか、中階層入りたての僕みたいな人間にも公平に接してくれている、真性の委員長さんだよ。
僕はその言葉に背を押されて、一歩、扉の外に足を踏み出した。
長い前室。
つまりはここにはまだモンスターが出ない、安心の部屋、ここから分岐して思い思うの方向に進んでゆく、多くのダンジョンウォーカーは例外なく前の方に進んで行ってる。でも僕らは今の扉の前から、このエレベーターの真後ろの部屋に向かって、その次の部屋にある割と大きな部屋に向かうらしい。そこがまず、1つ目の『金色宝箱』目撃情報の場所なんだって。
そんな事を相談していると、エレベーターの扉が閉まって、また再び地表に上がってゆく音がした。
「では進んで行こう」
と、喜耒さんの言葉で、僕らは歩み出した。
僕と喜耒さんが先頭に歩き出す。遅れて葉山さんが付いてくる。
「真壁秋、この壁の色が変わるところから、違う部屋だ、ここは廊下ではない、つまり出るぞ」
って忠告してくれた。
うん、そうだね、そんな感じだ。
室内、というか割と違う傾向の連続した空間に入って瞬間にあの、例の遭遇感が来た。敵がいる。
いや、いないなあ。どこにも。
と僕が前を見据えて惚けていると、
「上だ、真壁秋」
喜耒さんに言われて、初めて上をみると、いたよ。浮いている、というか飛んでるよ、なんかモンスターが。
中階層に入ってから一層感じることだけど、ここのダンジョンって天井が高いよね。多分3階建ての建物くらいなら平気で入るくらいの許容はあるよ、だから、天井ギリにういていらると、いまひとつはっきりとは見えない。まるで高い電線の上に止まるスズメかカラスだよ。
僕にとっては初めてのタイプ、それに例の狸小路の真下、そこ以来の空飛ぶ敵だ。
数は3体、形的には、翼の生えた小ぶりな人って感じだ。
「ガーゴイルだ」
そう言って喜耒さんは、腰の剣を抜いた。