第44【あー、つまり雄蕊と雌蕊がな……察しろ!】
僕の意思をきちんと把握した上で、喜耒さんは顔を上にあげて、なんか悶えている。
「あー、つまりな真壁秋、なんていうか、男とだな、つまり雄しべと雌しべがあるだろ?」
ごめん、今の喜耒さんが言わんとしている事が今の説明で理解が遠ざかった。何を言っているのかサッパリわからない。
「すまない、これ以上の説明は、機会を儲ける事を約束するので、麻生さんに聞いてほしい」
喜耒さんじゃ話せなくて、麻生さんなら話せる何かがあるのかな?
ほとほと見当もつかないって顔をしている僕に、
「自分の言った事を思い出せよ、本当に君は鈍いのだな」
って真っ赤な顔してソッポを向いてしまった。
もう、その仕草や態度が、これ以上は聞くなって言っている、もうこの件については追求できなさそうだ。いいよ、麻生さんに聞くから。
それにしても、恥ずかしげに、もじもじする姿って、僕の持っていた彼女のイメージとはかなりかけ離れていて、なんか、こういう喜耒さんて、嫌いじゃないなあ、と、ちょっと、いや、かなり可愛いとか思ってしまう僕がいる。
そんな事を考えた瞬間だった。
何かに全身を貫かれた感じがする。
思わず見上げてしまうこの部屋の、エレベーターの天井、春夏……じゃなかった、遥か地上からやってくる。
思わずゾクッとした。でもそれほど怖くはないんだ。
上だ、ここじゃなくて遥か上の方、多分距離にしても地上? くらいの位置から、とても大きな感情見たいな塊を叩きつけられたって気がした。いやされたんだ。間違いない。
僕にはわからないが相手は僕の位置を的確い取られているがわかる。
一体、誰だ、そしてこの向けられて刺さり込む感情はなんだろう?
まったくわからない。
でもこれだけは言える。
少なくとも、相手は今すぐにここには来れない。焦りみたいな物も感じたんだ。焦土とも言える、そんな焼きつくすような感情。それがあるってことは多分、この得体の知れない攻撃とも言える感情を放ってきている相手は、間違いなくここには来れない。
だから、度外視でいいな、って思った。
「真壁秋、お前も感じたか?」
頷く僕。
「ひどく寒気がするな、一体なんなんだ?」
僕は熱く感じたけど、人によるみたいだな、で、それを受け取ったのって僕と喜耒さんだけみたいだ。
そんな会話の後、直ぐに僕らを取り巻いていたというか、何処から差し込まれる視線のような感覚は消えた。
「異常はないか真壁秋?」
「喜耒さんも大丈夫?」
互いの異常の有無を確認の後に、なんともなってなくて、僕らはホッとしていた。でも、不思議と敵意みたいなものや害は感じなかったんだよね、だからこの辺は感覚でスルーして置いて構わないって結論が不思議と出てしまっている。
「ちょっと、人が情報を集めている時に、何イチャイチャしてるのよ」
って戻ってきた葉山さんに言われて、ここで初めて現実というか、今の状況に気持ちが戻って来た。
いや、イチャイチャしてないし。
「何を馬鹿な」
って喜耒さんもいうけど、
「側から見たか、イチャイチャしてるみたいに見えたよ、いつのまにか距離も近いし、なんか私、邪魔だったら消えようか?」
などと恐ろしい事を真顔で言う葉山さんだ。慌てて離れる僕と喜耒さんだ。さっきまで周りに悟られまいと、小声で会話してたから、いつのまにかこんな至近距離になってた。文字通り恋人未満距離だ。やばいやばい。
「でも、案外、仲はいいみたいだね、安心したかな」
と、これこそが学級委員長なパブリックな顔で、葉山さんは言うんだよね、仲良きことは美しき的ことなな、って感じで、健全な中学生サンプルみたいな感じな笑顔だよ。
「一応、彼女たちに聞いておいたんだけど、このエレベーターを降た階、それから1階上がった階、そして、その階から4階下がったところで、『金色宝箱』の目撃情報があるみたい、鍵師さんはその辺に出没する可能性は大だよ」
凄いな葉山さんの情報収集能力。
感心というか、彼女の顔の広さに、ただ驚くばかりの僕だったよ。