第45話【しつこいナンパは迷惑です】
葉山さんに言われた喜耒さんは急に我に帰った顔をして僕をジッと見る。
「ああ、すまない真壁秋、いつものように麻生さんと会話しているつもりでいてしまった、大丈夫だ、レベルは合わせられる」
と、謝られてしまう。
この2人、葉山さんと喜耒さんて優しいよね、その優しさが妙に隙もなく密度濃いめで硬くて僕のデリケートで柔らかい心を削り取って行く感じがして、心遣いが痛い。久能次男さんが見つかるまでに、僕の血が滲みそうな心が無事だといいな。
僕たちは、目的の階層に進めるエレベーターに乗った。一気に中階層の地下20階まで進んで、それから深度を進めてゆくって事らしい。
それにしても結構でかい。このエレベーター。学校の教室くらいは平気である。
今の時間帯だと、出てゆく人の方が多いらしいけど、今日は降りる人も結構多いって葉山さんが言っていた。
そしてエレベーターはガガンと動き出す。
そうなんだ、僕らを合わせても20人くらいの人が乗っている。この広さに対しての人数なら疎らな感じがするんだけど、多い方なんだね。
そうなんだと、感心している僕らに、というか喜耒さんと葉山さんに、声をかける人物がいる。
「ねえ、彼女達、よかったら僕らと一緒に行かない?」
見れば、高校生くらいの3人組の1人、中途半端なイケメンな男の人が初対面では近すぎる距離で葉山さんにそう声をかける。
「いいです、私達、目的があるので、ご一緒できません、遠慮します」
と声をかけてきた男子の方も見ずに断る。いつもの葉山さんと違ってすごい冷たい声。もう、相手に向けた否定の感情を隠しもしていない感じ。僕が話しかけて葉山さんがこの声色で答えたら、どこか暗がりを探して蹲るよ。
「そんな事ないよ、協力するよ、女の子2人じゃ危ないよ、最近、中階層の浅いところでもレッドキャップとかも出てるみたいだしさ、一緒に行こうよ」
僕は数に入っていないみたいだね。
レッドキャップが出た件は早速、情報として出回っているみたいだね、早いね、情報源はギルドだね、一応報告は上げておいたから、警戒するって意味でもきちんと公開されていて、感心だね。
その後は無視をする葉山さん。このエレベーターっていう空間にいるから、逃げるに逃げられないよ。完全に閉じた空間だね。結構しつこいなあ、この人たち。
「君たち、お友達同士なの? 同級生かな? 高校生くらい?」
なんか、ダンジョンの事とは関係ない事を話し始めるっていうか、聴き始める。
ここは普通パーティーメンバーに誘うなら、持っているスキルとか、現在のその人の限界到達深度(どこまで潜って行けるか)とかじゃないのかよ、って思ってしまって、このお兄さん達に話している内容は全部、どちらかというと葉山さんの個人的な情報な気がする。
一体、彼らは何がしたいんだろう?
と思っている僕なんだけど、次の一瞬で閃いたよ。
ああ、そうか、これが俗にいうナンパなのか。初めて見た。
一応、こんな僕でもそれがどういう行為かは知っている。でも実際にこうして目の当たりにできるなんて思いもしなかった。なんだろう、絶対に見れる筈もないウミガメの産卵とかを見ている気分だ。多分この世界の出来事ではあるものの、どこか遠い世界の出来事だと思っていた。
そうか、これが世に言うナンパなんだな。
僕の認識からすると、ナンパって、特に男の子から女の子に対して行われる行為で、性的に仲良くなりたいって言う積極的な第一次接触行為だよね。知ってる知ってる。
でも女の子側にその意思の片鱗でもあるといいのだけれども、そうでない場合は迷惑以外の何物でもないよね。今の状況を見ていてもわかる。しかも、今、僕らは下の階に向かっているエレベーターの中で逃げ場のない空間にいる。確かにナンパする側がからすると好機な形だけど、声を掛けられた側から見ると、ある意味追い詰められている感があるよね、恐怖な感じだよね。もしかしたら性犯罪かもって重さもある。
ああ、ダメだ、葉山さんも喜耒さんもきっと迷惑している。ここは男である僕がなんとかしなきゃだよ。
「あの、すいません、ちょっとやめてもらえますか?」
と僕は、その見た目イケメンなお兄さんに声をかける。
すると、そのお兄さんは、僕を一瞥して、
「誰? 弟さん?」
なんて言い出す。
似てないよ、僕ら、僕と、喜耒さん、葉山さんと僕。まあ、その言葉の中身は、異性である僕を徹底的にこの空間から排除したいって気持ちの表れなんだろうなあ。
そして、その声を掛けてきたイケメン風のお兄さん、よく見ると、なんかイケメンていう感じはあるものの、実際はそうでもないな、髪型とか、表情の作り方とか、なんかちょっと化粧しているのかな、眉毛とかも一生懸命に整えている努力の片鱗が見える。つまりイケメンでもなくてイケメン未満でイケメン風味な感じだね。