第43話【女子達だけの秘密の契約】
そして今日もまた、ベテランダンジョンウォーカーである葉山さんと喜耒さんを頼って、これまた頼りにしようと鍵師さんを探しに行く、他力本願な僕でいいんだから、何に一体謝っているのか、僕にはさっぱりわからなかった。
多分、僕はその時、キョトンとした顔をしていたんだと思うんだけど、その顔をじっと見て、
「なんで意地悪されたかわかんないって顔だよね?」
もう、頷くしか。
「真壁くんて、優しいけど、あんまり女の子の気持ちとか、わかんない人?」
ああ、そうか、葉山さんは知らないのかな、僕、最近、で女の子とあまり話をした事ってないんだよね。
だから、もし、選択で、女の子の考えている事を当てるか、ダンジョンの深部でエルダーと戦うか、って言われたら、躊躇無く後者を選ぶよ、だって、後者なら力づくでなんとかできそうじゃん、前者ならその方法の糸口すら見当たらないよ、最高級難易度だよ。
「あのさ、葉山さんは知らないと思うけど、僕、最近まで学校の女子に無視されるっている状況なんだよ、ダンジョンに通い初めて、春夏さんとか、たまに葉山さんとかが話してくれる様になって、こう言う風に女の子の顔を見て話せるようになってのって最近の話なんだよ」
と説明した。言葉を選んでなるべくやわらく言った僕だけどさ、やっぱりその事実よりも僕の心は柔くで、奥底の方から何かをザックリと切り裂くような音と痛みを感じてしまう。弱いな、僕。
「うん、知ってる、有名だよ」
「でしょ? だから、気持ちを・・・」
説明に追加をしようとして、言葉が出始めて、その前に差し込まれた葉山さんの言葉が時間差を伴って今、声が構成する言葉の意味が僕の大脳新皮質の言語視野の領域に刻みこまれて、その言葉を何度か反芻しては確認したのち意味を理解して驚愕している僕がいる。
「え? 今、なんて?」
「だから、知ってるよ、それ、多分、この界隈の女子ならみんな知ってる」
あまりの事に言葉すら出ない僕を見て、そして、驚愕する僕を見て、喜耒さんが、
「あー、葉山、それはまだ言っちゃダメだ」
と言った。
僕は驚愕に彩られた白に近い顔で、不自然なほどカクカクした動きで今度は喜耒さんを見る。
「え? なんで? 喜耒さんも普通に話しかけてたじゃない」
「ダンジョン関係は、命に関わることもあるから、例の条約とは切り離されているんだ、葉山の方には一般の女子からしか話が行ってなかったからな、それに委員長だし、かなり大目に見られてはいるんだぞ」
この2人、知ってる、僕の『女子に無視される』って言う環境が作られた原因を、この2人は知ってるんだ。
「ねえ、ちょっと!」
もう言葉なんて選んでられない僕は、そんな言葉で彼女たちを呼び止める。しかし、
「すまない、真壁秋、これ以上の事はもう話せない、そして、できれば葉山の言った事は忘れてほしい」
喜耒さんに肩をガッリと掴まれ強く、強く言われる。
「なんだ、じゃあ、まだ東雲さんと、どうもなってないんじゃない」
と何故か気を良くしている葉山さん、なんか鼻歌でも歌い出しそうな勢いだ。
「もう喋るな、葉山!」
「あ、ごめん、なんでもないわよ真壁くん」
何にもないわけないだろう! ねえ、教えてよ、そう叫び出しそうになる僕のこの寒くて切ない環境に差し込むかに見えた一筋の光明の差す扉は、残酷にも再び重く閉じられ、暗黒の世界が始まってしまった。
「そろそろ出発しよう、ほら真壁秋、鍵師を探しに行くのだろ?」
「じゃあ、出発するよ、真壁くん。準備はいい?」
「うん」
装備は大丈夫だけど、心がそれについていかない。
もうね、喜耒さんと葉山さんの中では先ほどの話は完全に終わった感があって、これ以上僕が何を追求しても絶対に話してはくれないなってのは彼女達の雰囲気でわかるよ。
「ほら、真壁秋、宝箱を開けられるようになるんだろ、しっかりしろ、私がお前を励ますと言うのも、何か違う気がするが、ここはひとまず鍵が開くようになるだけど良しとしようじゃないか」
そうだね、大きな前進だね。
どんな鍵でも、罠でも解放するって言う久能次男さん、この頑なに秘密を守ろうとする女子たちの心の鍵も開けてくれるといいなあ、なんてファンシーな事を考えてしまう僕だった。
「真壁秋、ほら、行くぞ」
「あ、ごめん」
僕は先にズンズン進む喜耒さんと葉山さんに追いつこうと、小走りで、7丁目ゲートの階段に進んで行くのであった。