第40話【委員長(葉山さん)と一緒②】
「葉山、お前!」
「ごめんごめん」
気がついた喜耒さんに怒られる葉山さんは、特に悪いと感じている様子もなく、心のこもらない謝罪をしていた。
そして、
「じゃあ行こうか、真壁くん」
と言い出す。
「なんだ、葉山も一緒に行ってくれるのか?」
「うん、今日は暇だしね、今月はノルマ達成してるし、別件はあるけど、こっちからは動くような案件じゃないから」
葉山さんて、ダンジョンウォーカーっていうより『冒険者』なんだろうか?
なんか積極的に札幌ダンジョンで生計を立てているみたいだ。もっとも、このダンジョンに通う『冒険者』の殆どは、生活の全てをダンジョンに委ねて、学校とか通ってないけどね。みんなダンジョンに入れなくなる年齢までダンジョンに入り浸って、その後から学校に通う人や大検とか受ける人とかがほとんどで、前に、というか今もある程度の社会問題になっている。
それでも、就職には困らないらしいよ、元ダンジョンウォーカー。中途半端に学校に通うよりもいいとこに就職できるって噂もあるからね。
葉山さんもその口かなあ、って思うも、実際、彼女勉強できるしね、しかも委員長だし、クラスまとめてるしね、ある意味僕とは全く違う人種だよ。
学校も、ダンジョンも何もかも上位でこなしまくる彼女から見たら、僕なんて、本当に子供みたいに見えるんだろうなあ、って自覚はあるんだよ。
だから、僕からの彼女への感情は話を聞いてもらうとか相談に乗ってもらってのは間違いなく頼りにしているというか甘えだよね。ほんと、しっかりしなきゃ。これは葉山さんだけでなく春夏さんにも言える事だよ。
「そうか、それは心強いな、じゃあ、準備が出来次第、出発しよう」
と言う話に纏まっていた。
そうか、ダンジョン行くのか、いいけど。
今日は暇だったし、どのみち、その『罠外し外注』の件はこのままってわけにも行かないし、このまま向こうからの接触がないなら、もうちょっと階が深まってから対処しようとは思っていたから、それにダンジョンに関してギルドの情報源と、その他僕なんかが想像できないような情報網を持っている僕なんかよりも1年長く潜っているベテランさんな喜耒さんと葉山さんが一緒に行ってくれるのは心強いばかりなんだけど、強いて言うなら、僕の意見って全く聞かれていないのが、ちょっと引っかかるけど、まあいいや。
今日は、いつもと違うメンバーで、教えてもらうと言う気構えでご一緒してもらおう。
ひとまず、ダンジョンに入る時の格好に着替えて、校門集合ってことになって、3人でゴトゴトと路面電車に揺られながら、大通り7丁目ゲートに向かった。
その移動途中に、葉山さんと喜耒さんから色々な話を聞いた。
特に『鍵師』と言う通り名を持つ、久能次男さんについての話。
「言いにくい話だが、割とトラブルを起こす人物でな、ギルドの方にも苦情が良く入って来るような人物だ」
その内容というのが、金銭の絡む事らしい。
その鍵師さんは色々なパーティーの罠の解除を外注されるらしいんだけど、料金設定が割と高めらしい。
「例えば、鍵師さんの開けた宝箱から出てくるアイテムの市場価値が千円程度のものでも、数万円を請求されたっていう苦情もある」
「深階層では恨みも買っているみたいなの、結構な数、そのあたりで行方不明になったって思えば、多分、彼を知る人間なら、誰でも納得すると思うわ」
というのは葉山さんだ。
「2人はその鍵師さんに会った事あるの?」
葉山さんは即座に頷いて、喜耒さんは考え込みながらも縦に降った。
「何度かギルドに来た時に、多分、あれは工藤さんに会っていたんだと思う、その時に見かけている」
それ以外の接点は無いって話。で、葉山さんの方は、
「深階層の装置や扉や宝箱なんか、彼の介入無しはありえない状況は結構あったと思う、実際、私が手伝ってパーティーに何度か混ざってくれたけど、あの腕前は確かに凄いと思う、腕は確か、他に類を見ないって言ってもいいと思う、それだけ料金の設定が高くて、クライアントとのトラブルとかになりやすいのかもね」
割と内容の方も詳しく知っているみたい。
「そっか、二人とも実際に会ってるんだね」
なんか、その『鍵師』さんを想像できないけど、トラップの解除とかでは、ダンジョン内では脅威的な腕前を持っているってことだけはたしかだね、でもそんな人を北海道銘菓の入ってるダンボール宝箱を開けさす為にお願いしていいのかちょっとおこまがましい気がしてならない。
「あ、ここで降りるよ」
と話の途中だけど、葉山さんがそう言って立ち上がった。
まだススキノの前、資生館小学校前駅だよここ。