第24話【僕と真希さんと銀色のヤツ】
深階層到達するなんて、一体いつのことになるか……。
「ほれ! アッキー、銀色のが出て来たべ、始めるべさ!」
って言って、真希さんようやく僕の背中から降りてくれた。
うん、じゃあ、まあ、始めるか。
って、さっきまで銀色の点がじわりじわりと大きくなって来て、今は僕の足元に直径20cmくらいの大きさになっている。
なんか、さっき春夏さんがやっつけていたよりも小さいな、初心者用か?
じゃあ、って思って、僕はその銀色の染みが着いた床を突き始める。
ガチン!
って、普通にコンクリートの床を突いた時みたいな感触が僕の手に帰って来る。
「残念、外れだべ」
って真希さんに言われて、ああ、そっか、僕の攻撃、スライムには当たってないんだな、って教えてもらえた。
つまり、床を叩いてるだけって事だ。
これはさ、僕でも知ってる一般常識なんだけど、浅階層の、特にここ、スライムの森に現れるスライムって、ぶっちゃけると、『染み』なんだよ。
よく勘違いされてるけど、スライムって決して雑魚ではないんだ。
正確に言うんら、倒す事が難しいモンスターなんだよ。
斬っても叩いても、燃やしても凍らしても、稲妻落としても、ほとんどダメージはないし、さらに始末に追えないのが、種類にもよるけど、触れるものを、どんな物でも溶かして来るから、それこそ深階層で活躍するダンジョンウォーカーの人たちにとっては、装備を壊してしまう厄介なモンスターとして知られているんだ。
動きは遅いから、放置して逃げるってのが概ね多くのダンジョンウォーカーの取るパターンらしい。
相手にしないって言うのが一番有効な相手って事だよ。
その知能は、ほとんど無いに等しく、僕らの知ってる世界で言う所の原生生物に近い行動パターンで、襲って来る。
これがまた厄介なんだ。シンプルな相手だけにやりにくいって、必勝パターンも無いからね。
基本的には深階層のモンスターなんだけど、その一部は、こうして地上に近い、ここスライムの森にでて来る。
本来は、深階層のモンスターは、浅階層では生存できないって、強力なモンスターほど、地上にはでてこれないらしいんだ。仕組みのほうはよくわからないけど、それって、ダンジョンの常識らしい。
でもスライムの場合は、特別で、その強い生命力ゆえに、ここまで来るんだって。
でも、そのころにはすでに、凶悪な力も巨大な体もなくしていって、見た目にぎりぎり存在してるシミの姿になってしまって、たった一回、攻撃を与えるだけで消滅してしまうんだそうだ。
つまりね、スライムは継続的に自己存在を維持できなくなって確率的存在になるんだよ。
で、存在することで、限界になったスライムは、木の棒の大して強さのない一撃、接触っていってもいいくらいの一撃で消滅するんだ。
しかも、当たると、きちんと手ごたえがフィードバックして来るらしいんだ。
その存在確率は3分の1って言われてるから、だいたい3回攻撃すれば倒せるんだけど、おかしいな、この銀色のヤツ、もう10回以上攻撃してるのに全然消えないぞ。
「ほれ、どうしたアッキー、ダンジョン、初モンスター退治だべ、気張るべさ」
って言ってる。
いつの間にか、僕の背中を降りた真希さん、大きな石の上に腰かけて、僕を見て楽しそうに微笑んでる。
カンカンカンカンって、床を突き続けても、フィードバックどころじゃなくて、そのシミは消えもしない。
けっこうな数を突いたんだけど、さすがにこれはおかしいなあ、って真希さんを見てしまうんだけど、真希さんは「がんばれ!」しか言わない。
うん、じゃあ、がんばるよ。
そして、僕の意もしない長い戦いは始まったんだ。
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