閑話休題3−18【喜耒薫子、と、謎師匠と真壁秋】
まるでそこにいるかの様な真壁秋の姿。
そして自分の想像する真壁秋に対して、「いやだ、私ったら、こんな時に真壁先輩のことを考えてるなんて」と乙女な感じになる。推理と思考、スキル『メディック』により強化された観察眼により、いい線まで行っていた雪華だが恋する乙女補正により結論から遠かってしまう。
「もともと、『天然添加物YOUが独奏。ラララ〜♪』って奴だから、どうなるかとは思っていたけどな、うまく行ってよかったべ」
一瞬、雪華の思考は、真希の適当な諺や漢文などの世界に埋没しそうになるが、
「天上天下唯我独尊、だな、最後のラララ〜♫はわからんが」
といつの間にか後ろに来ていた麻生が雪華の迷いそうになっていた思考を救ってくれた。
「そう、それな」
と真希が言った。
「さすがに効果があらわるのが早いな、いい師匠に巡り会えて何よりだ」
と麻生が言うも、
「札雷館やギルドとか以外にも、剣を教えてくれる人っているんですね? 聞いたことなかったからびっくりしてます」
と雪華が言うのも無理はないと、思う真希は、
「まあ、私だって、『殲滅の凶歌』その人が引き受けてくれるだなんて思わかったべからね」
という真希の言葉に雪華は言葉を失う。そして奏は喰いつく。
「待って、今、工藤さん、なんて言った?」
「だから、『殲滅の凶歌』だよ、知らないべか? ちょっと前までは有名だったべさ、最近の若いダンジョンウォーカーなら仕方ないべかね」
「いやいや、知らない人なんていないでしょ、常勝無敗、一瞬滅殺な伝説の剣士ですよ、伝説ですよ、伝承ですよ、未だ言い伝えられている人ですよ、あまりの非常識な強さに、どこまで本当でどこまでが脚色なのかって、マジっすか、本当にですか?」
ダンジョンの歴史を勉強している雪華にとって、それは知る名前だった。
しかし、正式な記録として残ってはいないのだ。噂や伝承とか、いやいやこれは法螺話でしょ、っての残ってる。しかし、その人物が誰であるかとかは、全く無い。多分それはいくら伝説とはいえダンジョンウォーカーとしての個人情報だからなのかも、と思う雪華だ。
そんな凄い人が実在して、今、薫子の師匠になっているんだ、と他人事だが感心すると言った態度に止まる。が、次の言葉は聞き逃さなかった。
「ま、今は主婦で暇って言ってたんだよ、こうしてルー子がここにいるから今も暇で、多分、アッキーの今日の夕食でも考えているべさ」
そんな真希の一言を乙女補正のかかる雪華の秋フィルターの装備された雪華の耳は聴きも漏らさなかった。素早く真希が発する秋の愛称を拾い上げる。
「は? 真希さん、今なんて?」
この話題だから奏が食いついて来るのは予想できた真希であったが、まさかの雪華である。ものすごい食いついてる。
「いやだからさ、暇だから」
「じゃなくて次です、誰の夕食って言ったんですか?」
「アッキーだよ、今はルー子もだよな」
「アッキーってまさか!」
「秋だよ、真壁秋」
「なんで『殲滅の凶歌』が真壁先輩の夕食を作るんですか?」
「母だもの、息子の夕食を作るのは当たり前だべさ」
ここで初めて、今日花と秋の関係性を知ることができた雪華と奏だったりする。
両者とも思うとことがありすぎて、次の語をつげないでいる。