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閑話休題3−16喜耒薫子、真壁秋に出会う】


 逃げている自分を十分に理解しながら、何の解決にもなっていないと思いながらも、情けないと思いながら、薫子は駆けた、真壁家の玄関に向かって、一刻も早くこの状況下から脱出する為に、そうだ、今日は頼んで川岸雪華の家にでもお邪魔しよう、それがいい。


 慌てて玄関で靴を履いて、そして扉を開いた瞬間、その時は来てしまった。


 まさに神が準備した奇跡。悪魔が紡ぎ出した惨事。


 息を飲むと言う表現があるが、人間、本当に驚くと息をする事すら忘れてしまう物だと、この日、初めて薫子は知った。


 扉を開けた時、そこには真壁秋、その人がいた。


 一刻も早くこの家から飛び出そうとした瞬間にだ。


 薫子はここに運命の残酷さを知った。


 薫子が皿の様に見開いた真壁秋はまっすぐこちらに顔を向けて立っていた。


 何かを言わなければ、何を言おう、何をどう伝えよう、何から話せばいい? ああ、ほんとどうしよう。 


 そんな慌てふためめて散り散りになる心の中、薫子は逃げられない事を悟る。もう無理だ。


 でも決して諦めの境地ではなく、自分の心にわずかに残った積極的な気持ちの数ミリを奮い起こして、薫子は真っ直ぐと真壁秋の顔を見る。そして逃げない、と必死に思い起こしてその目を真っ直ぐと見つめた。


 見つめて、あれ? と気がついた。


 真壁秋の目は閉じられていた。


 頑強にして強固に閉じられていた。


 「母さん、春夏さん、近くのサツドラ(北海道ではメジャーなドラックストア)に行くって行っちゃったから、何も見えなんだ、ちょっと手を貸してよ」


 と言われる。


 よく見ると、真壁秋の目の周りには赤く腫れていた。そして手でこすった跡もある。


 そして、思わず差し出されたダンジョンの中では狂王と呼ばれる真壁秋の手を取ってしまう、賢王こと、喜耒薫子である。


 「宝箱開けたらさー、ヨイトマケが飛び出して来てさー」


 と母親に愚痴をタラタラと零すバカ息子がそこにはいた。


 「ヨイトマケは美味しかったんだけど、目をこすっちゃってさ、腫れてるんだ、ほっといても治るって言っても、春夏さんが心配してさー」


 とここまで喋って、


 「お母さん、聞いてるの?」


 と真壁秋は母だと思っている薫子に対して、その反応の薄さから少々の不満を持ってしまった様だ。


 もちろん、母だと思い込まれている薫子には返事ができるはずもない。と言うか声が出せない。バレてしまうから。


 とはいうものの、母を頼り目が見えていない息子は、『引いて』と言わんばかりに手を刺しがし来る。


 思わず、その手を取ってしまう薫子だった。確か彼の部屋は、対面だった。


 「だいたいさ、中階層のこんな浅い階から宝箱に罠って酷くない、僕まだ初心者なのにさ」


 よくまあ、あの戦力で初心者なんて言えるもんだと、薫子はちょっと思ったが、思わず真壁秋の握る手を強くしいてしまったが、今はそれどころではない。そんな話でもない。


 そこまで思って、ここで初めて、この真壁秋がこんな事を言ってくるのか、突然、理解した、ハッした、と言うか、今まで、初対面の今日花に甘えていたからこその薫子だから気がつけたことがあった。


 それは、この状況下において、この絶体絶命の最中、少しだけ薫子の緊張仕切った心が少しだけ綻ぶ出来事でもあった。


 ああそうか、こいつ、多分…


 そう思って、目を瞑って、自分を母親だと信じて、手を引かれてついてくるこの真壁秋の頭を、ポンポンと数回撫でてみた。


 自分でもどうしてこんな大胆な行動に出てみたかわからない。でも、多分、これであってる。さっき今日花に教えてもたった。真壁秋は母親に甘えているんだ。それは揺るぎない確信でもあった。なんとなく、根拠もないく、本能がそう薫子に教えた感じだ。


 すると、真壁秋は言う。


 「まあ、そりゃあさ、僕も悪いとは思うけどさ」


 なんて言って、そのまま黙ってしまう。ここで今日あった事を振り返って、真摯に反省している様な姿を見せてそのまま黙って、薫子に手を引かれついてくる。


 そんな真壁秋をリビングのソファーに座らせて、薫子は最大速度で先ほど案内された与えられたばかりの今日から自分の部屋になったところににたどり着き、内鍵を閉めて、扉にもたれたまま、ヘナヘナと座り込んだ。


 色々あった。


 とにかく、落ち着こう。


 話はそれからだ。


 ドキドキと胸が波打つ薫子が今一番驚いていることが口に出る。


 「あいつ、いい子だ」


 それは、ギルドの構成員として将来を期待される喜耒薫子が、ふざけている、バカにしていると思い込んでいた真壁秋に対する印象がガラリと変わった瞬間でもあった。


 嵐にすらあ例えられない規格外の強さと暴力。


 それすら踏まえた上で、なんだって、思えるのだ。


 なんだ、こいつ、母親の前では普通にいい子じゃないか。


 そして、ここに至り、薫子は思う。


 まだ問題は山積していると言う事を、そして何も解決していない事を。


 それでも、


 「あははは」


 と素直に今の出来事を笑えるくらいには気持ちは晴れ渡り、心も回復した薫子でもあった。


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