閑話休題3−12【喜耒薫子、理解される】
腕組みをしつつ、ご主人やら、上品に微笑むそのまた隣の奥さんと、今日花と彼女に未だ抱かれてる薫子。ご近所さんたちは華やいで、現役ダンジョンウォーカーを前に話は盛り上がっていた。
「ああ、知ってる、そういえばどっかで見たことあると思ったんだよ、有名人だな」
「次のギルドの中心になる子でしょ、一日で深階層までたどり着いたって言う話、聞いているわよ」
「そりゃあすごいなあ、本物のエリートクラスってやつかよ、長い間ダンジョンに入ってたけど、『普通』のエリートダンジョンウォーカーって初めて見たよ、サインでももらってこうかな」
と元ダンジョンウォーカーの大人たちに予期もせず囲まれて、覗き込まれてしまう薫子だ。意外に現在のダンジョン事情に詳しくて驚いている薫子だった。やいのやいの言われて恐縮してしまう。
「ちょっと、みんなやめて、怖がってるから、大丈夫よ、悪い人たちじゃないからね」
と今日花が言うも、そんな姿を覗き込む隣のご主人はザックリとハッキリとキッパリとそのものズバリと言って来た。
「ああ、そうか、あれだろ? 秋ちゃんだろ?」
隣のご主人から、その言葉を聞いて、大丈夫、もう乗り越えたと思い込もうとしていた薫子の体はビクッと震えた。『秋』と言う言葉に反応したのだ。
「ああ、可哀想に、うん、わかるよ、わかる」
と、もう1人のお隣さんの奥さんもその反応を見て悟って言った。
彼らには見覚えがある反応だった。
かつて、自分もダンジョンウォーカーとして、ある程度ブイブイ言わせていた時期、今も、通りすがりの強盗クラスなら怪我もせずに制圧できるくらいの実力を持ちながらも、幸か不幸か今日花に出会ってしまった、あの時をかつての日を、自分の価値観と言うか生き方というか考え方を根本から変えざるを得なかったかつての日を思い出してしまった。
「あー」
と隣のご主人も、そんなため息とも同意の声とも、同情の声とも取れる排気音を漏らした。
そして、今は今日花の家を挟んだ隣の2人ともかつての自分を思い出して、どこか今の薫子と同じ表情になった。
彼らは今のダンジョンの事情にはそれなりに詳しい。
庭側のお隣さん、池上桜智さんは、ご主人がダンジョン関係のインフラの仕事に付いている。
もう一人のお隣さんである、氷野祐作は北海道開発局、ダンジョン課に務める人間で、今もダンジョンの情報は入ってくるし、本人も興味はあるので時間のあるときはそれなりに調べて現在のダンジョン事情を楽しんでいる。と言うか、元ダンジョンウォーカーの今は大人の元ダンジョンウォーカーの人間の殆どは、何らかの形でダンジョンに関わりを持ち、ある程度のふわっとした情報はリアルタイムに入ってくる。
肉親友人知人の誰かが現在のダンジョンウォーカーだったり、仕事がダンジョン絡みだったり、中には大きな組織にいた人間はOB会なんて物を作って現在のダンジョンウォーカーと交流を持つ者も少なくはない。
そんな今日花の隣に住む、今日花をよく知る彼らは、その息子である秋がダンジョンにいよいよ入ると知って、一番最初に思ったのは、『こりゃあ、荒れるわ』と言う確信だった。
情報の切れ端として、最近ダンジョン内で、特に浅いところで何かあったらしいと言う話は聞いていた。秋がダンジョンに入る様になって数日後のことだった。
早速何かやらかしたのだろうと思っていたところに、数日後、本来、光り輝く眩しいくらいの実力と自信に溢れる筈のダンジョンの中心組織のピッカピカのギルドのルーキーがシオシオになってここにいる。
まるで自分のテリトリーから綺麗に弾き飛ばされたみたいにスッポリと今日花の腕の中にいる。そして、薫子も彼らから見てもきちんとした実力者というのは見いてもわかる。その程度の眼力は今も失ってはいない彼らだ。概ねザックリとわかる、この子強いわ〜というのは見ていてもわかる。