閑話休題3−10【喜耒薫子、甘える】
そんな事を考えるのさえ無意味に思うくらいに、今の薫子は初めて体験する「甘え」に没頭していた。
ちなみに、今までの状況を事件として簡単に説明しておくと、彼らは国際指名手配されている、割と名のしれた窃盗団で中でも強硬派のまさに強盗団であり、その国籍はおそらくここに捕縛され倒された人間の数だけ多種にわたる犯罪者集団である。
目的は、『超多機能希少超合金』で作られた『剣』の入手。
クライアントから依頼され、破格の報酬は10%前払いという気前の良さ、そして仕事の内容、成功確率からほんのお使い程度の気乗りで決行したというわけだ。
セキュリティーもない、日中帯に主婦1人の一般住宅から剣という割と搬送も簡単な目標を奪取するだけの、まさに赤子の手を捻る様な物だ。少し前まで、こんな仕事を依頼したクライアントに対しても、どうかしていると思っていた。
しかし依頼者の報告では、その剣は玄関の傘立ての中にあるということだったが、残念ながら本日は剣は傘立てに確認できずに、所有者である息子が持って言っているようだった。その後の情報では本日はダンジョン中階層初日であると言う。この家を勢力圏ないに置くには十分な時間がある。先に家を制圧して所有者である息子を待ち構えていようと言う内容に計画は変更された。それはとても些細な変更で、襲う方としては何の問題もなかった。
しかし、真壁家の裏庭から一名、隣の家から庭に向かって二名が真壁家に向かって突入しようと動いてしまったのは全くの予定外の行動であった。それでも、襲う側の彼等の誰もがすぐに終わると、残されたもの達はそう思っていた。
彼らの経験は長く、ベテランといってもよかったからだ、この程度のリカバリーなど問題にもならないとそう確信していた。
だが、ある意味終わってしまったのは彼らの方であった。
玄関から入った2名、その後、2名が追加で入った。
外にいる彼らはあくまでバックアップ。
しかし、玄関から入っていった2名とそのあとにフォローに入った2名、ものの数秒で制圧する筈がなんの物音もしない、しかし十数秒後、作戦の失敗を告げるエマージェンシーが鳴ったのを最後に音信不通になり、彼らの立てた作戦が全く進まなくなった所に、両隣の住人が、様子を伺おうとする怪しい人物を見つけて、対応した。
庭側の住宅には、庭の手入れをしようと出てきたのは、現在、一般の主婦。
そして、裏庭側には、タバコを吸おうとして、家を出て庭に出た本日お休みの隣の家のご主人が、それぞれの敷地に勝手に入っている不審な人物を発見した。
一応は声をかけるものの、いきなり襲いかかってきたので、撃退したと言う訳である。
そして隣のご主人はと言うと、2人の内、手の早い方は倒したものの、大きな方は逃がしてしまったと言う訳である。
隣の家、つまり真壁家に入る前になんとかしようと追いかけるも、その玄関先には今日花がいて、まあ一応は声をかけておいたと、もちろん、その姿を見たとき隣のご主人いは『ああ、真壁さんいたんだ、じゃあいいな』と追うのはやめ事態の収束を確認していた。
そしてもう1人の隣さんの奥さんは、今まさに大男から大きな刃物で今まさに襲い掛かられている小柄な専業主婦の今日花、その腕に抱かれた女の子、そんな瞬間を目撃しつつも同じく事件の収束を悟って、持っていたスマホから警察に連絡していた。
なぜなら、彼らは今日花がどのような人間で、そして今日花に今まさに襲いかかっている大柄の男がどうなるかも、この事態のわかりきった結果もまたよく知っているのだ。
彼らは2人とも元ダンジョンウォーカーで、今日花と同じ世代であり、この今日花というダンジョンウォーカーの真実を知る数少ない数名の中の2人なのである。