閑話休題3−5【喜耒薫子、追い出される】
何となく当たりのついたところで、真希は抱える多くの問題の一つを思い出していた。
あ、そう言えば、あいつツギには会えたべかな?
と各方面様々な思いを凝らしている真希である。流石にギルド事実上の長であり、広報担当ともなると忙しいようだ。
そう言えば黒の猟団の方も、ギルドとしてはこれ以上、そのままにしておくこともできなくなっていた。
真希は思う、これからはもっと力技で行かないといけないところも出てくるだろう。そう考えると、ここで薫子の技能向上は正直ありがたい以外の何者でもない。
とは言うものの、その思い付いた薫子を任せようとするピッタリの人物を真希の知る限りで思い返してみると、
「大丈夫だべか?」
と言う疑問にぶち当たってしまう。
名案思い付いた、と思った端から不安は吹き上がってくる。
ちょっとあいつ、常識とか規格がアレなんだよなあ。
言い出したら聞かないしなあ。
「ルー子命懸けかもなあ」
思い当たる人物に対して、その後をなんと無く想像して、思わず、そんな風に呟くものだらか、その言葉を耳にいててしまった薫子は、
「はい、お願いします」
と真希の腕を掴んで離さない。それどころか、真希を持ち上げてしまっている。身長の面で行くと春夏よ若干高い。しかも力がる。傍目に見ると真希の方が年下に見えてしまう
そして、真希とは言えば、
「私は無理だよ、いい人はいる、紹介はできる、行って見るかい?」
「はい」
「わかったよ、話をつけとくべから、行って見るといいべ」
と言ってから、
「したっけ、覚悟だけはしておくんだよ」
と言いながらも大丈夫だべか?
そう思うものの、まるで輝くような薫子の笑顔の前に、もう、今更、やっぱ止め、とは言えないよなあ、と思い、あの真壁秋を育てた人だから、大丈夫だろう、もう、任せよう、死にはしないだろうし、殺しもしないだろう。大丈夫、ルー子ならやれる。
それはライオンが我が子を千尋の谷に、いやナイアガラの滝、いやエンゼルホールに突き落とす感覚に似ているのかもしれないと、真希は思う。
「そうだね、『サイはハブられた』ってやつだべ」
それはまるで一匹のクロサイがシロサイの群れの中で自分の身の振り方を考えるも、クロサイは何も言ってくれない、的な話なのかなあ、と想像力のある雪華は考えるも、奏は全くのスルーで、そんな呟きに、なるべく任せているつもりの、遠くから見ている麻生は、ささやかに、「賽だ、そして投げられた、だ」とのツッコミに誰も気がつくことは無く事はなかった。
それでも薫子の悩みは正体不明の安寧(不安ともいう)包まれ、ひとまずこの時点ては解決の方向と向かって行くかに見えた。そして数日後、薫子の住まう、ダンジョンウォーカー、特にギルドの仲間が多く住む『あおい壮』では細やかな『お別れ会』なるものが実施された。
「え? もうここには住めないのですか?」
薫子にとっては、仕事で忙し父と共に生活する以外には、人と住むのは初めての体験だった、この寮も、ギルドで忙しい自分を助けてくれる、いい人の集まりのような場所で、居心地もよかった。
スキル持ちで、エリートでスカウト組などといわれても、当時はまだ小学校を卒業したばかりの薫子だ。
そんな不安をあらわにした彼女を、この場所はみな、優しく迎えてくれた。
『あおい壮にようこそ!』と歓迎された日はつい昨日のようで、そして一年以上たつ今も、そのやさしさとぬくもりが薫子の中に残っている。