閑話休題3−4【喜耒薫子、マッチングされる】
今回のことだって、最近、少し調子の良い、まあ普通に天狗になっていた薫子に『上には上がいる』ってことでの愚王、狂王との邂逅ではあったものの、完全に処方を誤った感じに薬が効きすぎてしまった。「上には規格外がいました』という感じで、効能が強すぎて未だ、あの時の衝撃からの酔いに冷めていない様子だ。
「私、剣とか教えられないしなあ。使わないし」
それはそうだと、思う薫子だ、納得もしている。しかし同時にそれでは、麻生には失礼 だが、普通の腕前、常識の範疇ではあの真壁秋には届かない。そう確信がある薫子だった。
麻生は強い。
それは間違いない。
しかし、彼の強さは、ギルドという『隊』の上での力だと思う。そして、薫子自身もそれでいいと、あの日まで、そう思っていた。
しかし、鏡界の海での出来事は、かつては揺るぎないと確信していた薫子の考えを簡単に踏み潰してしまう。
真壁秋、前住宝、そして、ここにいる工藤真希。
今の時点ては全く届かない頂が見えてしまった。
見上げる頂点は霞んで見通せないほどたかくそびえる強者の頂。
自分の技など稚技にも等しいと知った時の悔しさ、理解できてしまう嘆きに、そして悲しさ、恥ずかしさ。そして、そこへ到達しようとする自分の中にある得体のしれない欲求と高揚感。
もっと強くなって、みんなの力になりたい。
そうか? そんな事言って、自分の事しか考えていない自分もいる、利己的な自分。わがままな自分。あの極限状態はそれすら教えてくれた。
いやだ、もっと鍛えたい、厳しくされたい、だから強くなりたい。
まばらに舞う心が、もう収集なんてつかない。
もう、わけがわからないが、止まれない。
ただ、多分、この気分は酔っているということなのだと薫子は思う。未成年お薫子にとっては本当に酔っ払いう感覚は未だ未体験ではあるものの、完全に上位の者たちの技と力に煽られて、普通ではいられない気分になっているのは間違いなかった。
そして、同時にその薫子の心情を、態度を危機と取るかチャンスと思うか決めかねている真希もいる。
本当、どうしたもんか。
真希に剣は教えられない。
少なくとも今のギルドにあの真壁秋を前住宝の剣技をしのぐ者もいない。
薫子は真希に師事してほしいというが、真希からすると、真希が薫子に教えてあげられることなんて何もないのだ。
例えていうなら、いくら強大な力が欲しいと思ってはいても、人はドラゴンに学ばない。もとより規格が、単位が、種別が、カゴテリーが違う。
でも、まあ、本人がやる気になっている今がチャンスと言う考え方もあるって言えばある。
「俗に言う『ケツは赤いうちにぶて』ってヤツだべ」
「鉄だぞ、それに熱いだ、そして打てだな」と遠くの方でこれも心配で見に来ていた麻生が真希の的外れの諺にツッコミを、そっと入れるが気づくような真希でもなかった。
が、しかし、その今まさに1つの山場を乗り越えようとする薫子の背を推せるような人物に、とんと思いつかない真希でもあった。
少なくとも、剣技。
そして、なるべくなら実施例。
つまり、強力な弟子を育てたと言う実績。
何より断らず、面倒見よく、快諾してくれそうな人。
あ、そうか、ルー子はスカウト組で、寮住まいだから出来たら仮親になって生活全般の面倒を見てくれる人。
この子、寮住まいになってから、どんどん雑になって行ってる気がするんだよなあ。それを考えると同性の人、お母さんみたいに面倒を見てくれる人が理想だなあ。
なんて事を考えて、真希は笑う。
そんな都合の良い人がいるわけがないと。自分でおかしくて笑ってしまって、そんな身近に、いるわけがと思って、ハッと気がついた。
「いたわ」
いたよ、うん、いた。
最近、その人物の育てた弟子は、もうこのダンジョンの浅階層でやりたい放題している。仲間の強いってのもあるが、あれは本人無自覚ではないとは思う。『僕って通用するじゃん』とか確信している人間の行動で、黒の猟団どころか、このギルドに一瞬とはいえ、悪びれる様子もなく、自分で言うほどビビリもヘタレもせずに敵対して、私が来た時は、さすがにまずいかなあ、って顔しいるくらいの可愛げもあるけど、こっちが甘い顔をしてるから、その後も大した反省もせずにヘラヘラとしているやつを育てた奴がいる。
ああ、いたよ、これって奇跡のコラボだべさ?
ちょっと、能力的にも常識が無いやつだけどきっと大丈夫だべ、アッキーもいままで生きてこれたんだし、折衷案にしては、いい感じだべさ。
暇な主婦、そして、今、自分が何をしたいか、何に満ちていないか、完全に見失ってしまったポンコツになりつつある薫子。
そんな二つの結びつきの発想に至る真希は、私って天才じゃね?
などと思い至るのであった。