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閑話休題3−2【喜耒薫子、煽られる】

 あの時の戦い、過去となってしまった現在、『浅階層で一番長い日』とギルド、いやダンジョン全体でも伝えられている、あの騒動。


 それほど過去の話では無い。つい最近の出ごとで、ギルド、嫌、ダンジョンに衝撃をもたらした事件からそれほどの時間は立ってはいのにだから、傷つけられた心に取っては未だ新しい記憶なのだから仕方の無い事かもしれない。


 未だにギルドの組織の一部は混乱している。


 狂王こと真壁秋、そして彼の率いるパーティーの出現はそれほどの衝撃をこのギルドとダンジョンに与えていた。


 ダンジョンに入ってわずか数日の者たちがもたらした事件を簡単に説明するなら、ダンジョン内の冒険者の中でも最大勢力とも言われていた冒険者団体『黒の猟団』の崩壊、もはや生き残っているのは幹部数名とも言われている、そして、ギルドの全体人員(一部は補欠員)のほぼ半数との敵対と、エルダーモンスターとの迎合等々。


 どれか1つでも、多分、ダンジョンの歴史に刻むに相応しい事件であるが、彼らはこれを一度に起こしそして、意のままに全てを操って勝利している。


 現在は、ギルドとの和解が成立しているので、ダンジョン全体としては平和が保たれている状態ではあるものの、あの時の騒動がもたらした混乱は全てが収まっているとは言えない。


 事実、未だギルド内には狂王の息のかかるものが潜伏しているとも言われ、何よりその勢力は拡大し続けているとも言われている。これは由々しき事態にもかかわらず、


 「あの人は悪い人では無いと思います」


 と、ここにいる雪華をはじめとしてそんな事を言う人間は多い。


 事実、狂王である真壁秋は、ギルドの人間を傷つけたと言う事実は無いし、それどころか雪華のように助けている人間もいる、何より薫子も助けられた1人だ。


 そしてその事実が、彼女の心を蝕んでると言ってもいい。


 凄まじい戦闘力を持った、たった14歳の少年。


 自分と同じ歳の少年。


 どれほどの修羅場をくぐり抜ければあれほどの力を持つに至るのか?


 まるで剣の先にまで神経を張り巡らせるかのごとくの剣技に身のこなし。


 そして、


 一瞬、真壁秋の顔を思い出すも、なぜかあの時の緊張感のカケラもない、ニコっとした顔が思い浮かんで、イラっとする薫子は、


 「くっ!」


 と、自分の中に湧き上がるわけも無くドス黒い感情を払拭するために、苦悶に声を漏らしてしまう。


 「重症だな」


 「重症ね」


 と奏と雪華に呟かれている事にすら気がつかない。


 そんな薫子は決して弱くはない。ギルドの中でも高い戦闘力を持ち、たった1日でダンジョン深階層までたどり着くほどの実力者。


 ギルドに選ばれた自分自身、そして、『賢い王』と言うこの組織にとって頂点とも言える選ばれたもののみが与えられる、まさにダンジョン内の治安守るを義務とするギルドの象徴とも言えるスキルを継承した自分。


 傲りは無い。


 その思いも自信も、あの日、薫子は木っ端微塵にされたのだ。


 自分を『ただのダンジョンウォーカーだ』と名乗る、何の目的も、野望すら持たぬ人間に、まるで鼻歌を歌いながら、完膚なきまでに、粉々にその薫子そのものパーソナリティーは砕かれた。


 いっそ真壁秋が悪い人間なら、薫子としても心の持って行きようもあった。


 が、それを考えると、


 「っく…」


 あの時のよく言って人の良い屈託のない笑顔、悪く言ってまるで何も考えない、何も背負う物がないお気楽な真壁秋の笑顔が浮かんできて、薫子の心は瞬時に沸点に達する。


 わかっている。そんなことは関係無いのだ。


 性格や態度、立場や思想なんて強さに全く反映されない。


 それはあの時、痛いほど理解させてくれた。


 真壁秋自身に教えてもらった。


 感謝したいくらいな薫子でもある。なお、そこに喜びも感動も無い。


 ただ、真面目な薫子にとって、自分の前に、ひょっこりと現れてしまった、災厄のような、理不尽に対して、未だ心の整理どころか、叫びだしたいほどの、得体の知れない憤りとも違う何かに支配されている最中なのだ。


 ギルドの人間はみな親切なので、割と生暖かい目で見守るにとどまっている。


 もちろん、助けを求めれば応じようとは思うが、いまだ何に助けられ、なにが彼女の為になるのかすら、わかっていない。


 無理もない、それは本人すら、この吹き上がる感情に対して戸惑いを覚えているのだ。


 そんな壊れてる薫子をみなは心配しているが、そこに手を伸ばすこともできないというのが今の現状でもあった。 


  

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