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第34話【嗤(あざわら)う金色ノッポの宝箱】

 もー無理。


 放置だよ、放っておくしかない。


 その時の僕は、ただひたすら嵐と増水が収まるのを巣穴でじっと待っているカピパラの様な気分だったよ。うん、自然の脅威には逆らえないもん。 


 気がつけば、今現在、ギルドの事務室にいる女の子はほとんど、春夏さんと真希さんを中心とした集団に参加していて、彼女達が醸し出す囁きが土砂降りの雨みたになって、春夏さんおか細い声(何を言っているかまではわからない)が響く時は水を打ったような静けさになって、その後に黄色い悲鳴が輪唱みたいに響き渡る。


 美味しんな、ストロベリーチョコホワイト。これってフリーズドライのいちごがホワイトチョコ包まれて、菓子の食感で口の中にはフルーティーな感じが好きなんだよね。六花亭のすごいところはそのイチゴの大きさと、多分、普通にナマ食しても美味しイチゴを惜しげも無く使っているところにあるんだよ、千歳空港とかで見かけたら、お土産必須だよ。コーヒーとか合うかも。


 「でさ、実際のところはどうなんだよ?」


 と突然、僕の横から、ストロベリーチョコホワイトをつまんで口に入れながら聞いて来るのは佐藤和子さん、通称、カズちゃん、ギルドの保健室に詰めている、このダンジョンの中で最高峰の治癒スキルを持つ人物だ、僕もこの前お世話になった。


 「何がですか?」


 「サムライちゃんとのことだよ、いい感じになってるのか?」


 ものすごい人の悪い笑顔で僕にそう聞いて来る。


 「いや、そんなんじゃないですから」


  本当に、その一言に尽きる。僕と春夏さんはそうじゃないんだよ、春夏さんのお母さんに頼まれて、その条件下で僕はダンジョンに入る事ができたんだから、何度も助けられたし、その数分の1くらいは助け返したし、とても大切な仲間ではあるけど、そういうんじゃないんだよなあ、と言っても、僕自身が、特定の女子に対して何か特別な感情ってのを抱くってのも実際のところはよくわからないし、これは僕が子供だからそんな風に思ってしまっているからなのか僕には判断できない。


 すると、カズちゃんはこう言った。


 「なあ、不自然なほど、春夏を恋愛対象から外しているって自覚はないか?」


 あれ? なんか声のトーンとかいつもと違うきがする。


 その言い方、尋ね方がとても不思議な感じで、「ああ」って納得する部分と「まさか」って明確に否定する部分が心の中に現れて、おかしな言い方かもしれないけど、僕はドキッとしたんだ。戸惑い、不可思議で、どこか納得している自分に憮然としてしまう。


 それが多分、顔に出ていたんだろう、カズちゃんは慌てて、


 「すまない、ごめんごめん、ちょっと揶揄っただけだよ、忘れてくれ」


 と言って、僕の側を離れて、姦しい女子の渦の中に参加して行った。


 その輪の中の中心にいる女の子。


 春夏さん。


 実は僕、彼女の事を何も知らない。


 覚えていない。


 そんな事を今更ながら気がついたんだ。


 僕の知る春夏さんは、多分、母さんから間接的に聞かされた春夏さんで、その他のことだって、例えばあの君島くんさんとか、他の札雷館の人かもしれないけど、僕の知っている春夏さんはどれも、誰かの話の中で、誰かから聞いている春夏さんで、自分が見ていたってのとはちょっと違うと思う。             


 もっと昔に、僕が小さな頃にもう一人誰かいたような気がするんだ。


 思い出そうとするんだけど、それはいつも春夏さんの今の顔になって、あやふやな記憶が今の新しい記憶に置き換えられてしまう。


 多分、僕の思い違い。記憶違いだと思うけどなんか引っかかってたりすんだよ。


 時折、僕の方を見る春夏さんは、少し顔を赤らめて微笑んでいる。


 真希さんの尋問も、それほど悪くはないのかもしれないね。


 ちょっと色々あって、驚いたけど、なんかホッとしてる僕がいる。


 色々とピンチだったけど、今日もみんなのお陰でなんとか乗り切れたから、平和でいいなあ、なんてのんびりしている僕だったよ。


 その後、例の覗き犯罪とかいう濡れ衣は解消できて(その代わり『置物系男子』とかいうありがたくもない呼び名がついた、光合成すらしやしねえ、みたいな意味らしい)、今日の出来事を相談したんだよ。


 実はこの話、一部にはギルドも引っかかっているみたいで、例の背高ノッポの黄金の宝箱は噂になっていた。


 もちろん、僕たちが具体的な内容で持ってきたものだから、この話は本腰いててギルドの方で調べる算段となった見たい。


 『嗤う(あざわらう)金色の宝箱』


 結構な数の人間がイジェクトされて飛ばされているみたい。


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