第24話【余す事ない暗闇の中へ】
だって、もしもさ、こんな好条件でもなくてもさ、こんな冒険を断ってしまうのはダンジョンウォーカーじゃないよね。行くなら行く、潜れるなら潜る。これこそダンジョンの醍醐味だよ。
僕は躊躇する事なく、扉を開いた。
すると、そこには、なんだろう、普通に滑り台が置いてあった、と言うか、あの巨大商業的遊泳施設においてあるアレだ、ウオータースライダーな感じだね。シューターって。
係員の人がいないから、勝手に滑っていいんだよね。
なんか周りを見ると、『1人が滑り出して、背中が見えなくなってから次の人が滑ってください』とか、『順番を守って楽しく遊びましょう』とか『絶叫禁止』とか『足の方が下』とか、注意喚起が色々書かれている。
まあいいや、じゃあ、僕から。
ひとまず滑りだすと、その後、書いてある注意喚起を読んでいるのか、絶妙な間を置いて次々と滑って来る。
螺旋になっているから結構長く感じたけど、そこそこの速度で滑り落ちたから、すぐに下までついてしまった。
ひとまずシューターから離れて、周りを見渡して見る。
次に滑ってきた角田さんが僕の横に来て、
「暗闇に覆われていますね、この闇は魔法では晴らすことはできません、この部屋の特徴です」
「アギ、あっちあっち」
と続いて降りてきたツギさんが言う方を見ると、なんかその暗闇の中でうっすらと光るものがある。でも僕の目にはその光すら闇に沈んでいるように見えた。
ツギさんの目にはあれが見えるらしい。
「それって、スキルの能力です?」
「いやあ、俺、スキルとがねーんだわ」
ガチで身体能力らしい。どっかのアフリカの部族なんかでは、視力12,0っていう話を聞いたことがあるけど、ツギさんも相当なものだよね、どんなん風に見えてるんだろ?
「この暗闇、厄介だな、視覚に頼って戦えないよ」
と僕のボヤキを聞いて、角田さんが、
「いや、そうでもないみたいです、この部屋を覆う暗闇は宝箱の周りだけ無いみたいですね、そこまで近づけば暗闇に影響されずに戦闘が行えますよ、その領域が、多分、このモンスターのこちらを認識してくる範囲と思われます」
つまりは、普通に宝箱に近づくって事はそのモンスターと戦うって事で、宝箱が欲しかったら倒さなきゃだね、やっぱり。
ひとまず、臨戦態勢。
「じゃあ、行くよ」
モンスターがいるのはわかっている。
最悪、向こう側の先制攻撃は無い。
相手がどんなのかわからないのはいつもと一緒だしね。
僕は、ツギさんの指した方向へと飛び込んで行った。
続いて、春夏さん、角田さん、桃井君も続いた。
部屋中に充満していた暗闇は、多分、カーテン見たいなものだったようで、ほんの数歩で視界は開けた。そしてその先には、とても大きな、僕が想像していたより大きく、金色に輝く宝箱があった。なんだろう、そう、学校の体育館倉庫に置いてある最高層まで積み上げた跳び箱よりも若干大きいくらい。大きいっていうか高い。背高ノッポの宝箱だ。
が、問題なのはそこじゃない。
その前に立つモンスターだ。
まず見えたのは巨大な脚部。つまり足だね。
そして見上げると、その上に、当たり前のように上半身が付いていて、さらに上には頭が付いていた。
カッコは中世の蛮族みたいな感じ。持っているのは巨大な石なんだろうね、そんな材質でできた棍棒的な武器を携えている。
赤い髪と髭に覆われた顔の中から、銀色の目が僕らをジッと見つめていた。
そうだよね、僕らは彼が守る『宝箱』を狙う略奪者に他ならない。絶対の攻撃対象で殲滅対象だ。
初めて遭遇する種類のモンスター、『巨人族』本当にでかいし圧倒的だ。あの時にあったらミアさんより大きいよ、もう、この部屋の天井ギリギリの寸法だね。
やはり本能なんだろうか、抑えても自分よりも遥かに大きな敵に対して『怖い』と言う感情が溢れてくる。しっかりしろよ僕。過剰な恐怖はロクな結果を生まない。ここは普通に怖がっておこう。普通の絶望感。小さい頃の頃に初めてヒグマに遭遇した時くらいの絶望感に抑えておこう。
そのモンスターは大きく高い宝箱の前に覆いかぶさるように立ち、微動だにせずに僕らを見つめていた。
モンスターの目的、そして、僕らがここにいる理由を考えると、『ごめん、ちょっと迷っちゃった』じゃ済まない。もはや戦闘は避けらてない。
「アガルカル・メメント!」
角田さんの導言だ、道論、いつの間にか出現している請負頭の追加導言付き、つまり魔法スキルの発動。なんか今日に限って積極的だなあ。いつもは初見の敵は見ているだけなのに、ってか珍しく焦っている?
しかし、一瞬、瞬く無数の光も、すぐに消えてしまって多分、魔法の効果は現れなかった。ヤバい、うちのパーティーの戦闘能力の概ね半分を受け持つ角田さんの魔法が発動しない。窮地かこれ?