第21話【中階層の宝箱の中身はおおむね北海道銘菓】
まあ、ここまで来ているってことは『浅階層のジョージ』は倒しているんだろうと思うけど、それにしたって、さっき、これより深い階層って言っていたから、もっと強いモンスターが出るところだって潜っているはずなんだけど、なんか、この人からは戦闘を感じさせる雰囲気が1㎜も感じない。
「お前たち、間抜けだけど強いって評判だがらな、手伝って欲しいんだ」
一体誰がそんな事を…、でも想像つく。多分、ひどい北海道弁で言い回っているに違いな。
「今からですか?」
「今がら行ってぐれるのが?」
みんなの顔を見ると、特に問題もなくうなづいてくれた。桃井君は、ちょっと仏頂面だけど。
「桃井君だけ先に帰る?」
って親切心で聞いたんだけど、
「なんでそういう事を言うんですか! 行きます、秋様が行くのであれば、僕はどこまでもついて行きます」
ってプンスカしていた。なんだろう、反抗期かな。
「いいですよ、行きましょう」
と僕らはツギさんを加えて、ここから更に2階層下がることにした。
「た、助かるよ、ありがとうな、アギ」
と行ってツギさんはハーフなマントを羽織る。
「謎の宝箱のある部屋まで、道だから多分、モンスターは出ないと思うげと、俺、戦えないからな、弱いから、こうじて隠れてるよ」
と言った。
すると、角田さんが、
「これは珍しい、ダンジョンのマジックアイテムでもかなり稀有な物です」
とツギさんのマントを見て言った。
「『隠者のマント』じゃ、これは誰も装備できる、着ると魔法の効果が得られるじゃろ」
と、いつもの口調で説明してから、
「任意で自分の姿を消すことが出来る超希少アイテムです、多分二つとありません、でも、これを手にいていているってことは最下層まで下がっているってことですよ、今ここで、その能力を使われたら、我々に追うことは不可能です」
と僕だけに聞こえるようにそっと耳打ちしてくれた。
「い、いや、これは偶然に手に入ったんだよ、それよりアギの持ってるその剣の方が珍しいんじゃないがな」
真面目にさ、びっくりした。
角田さんの声は僕にだけ、それも他の人に聞かれなくらいのい小さな声だった。
普通の聴力なら、声は聞こえたにしても、その内容まで把握できるわけがない。この人異様に耳がいいんだ。
驚く僕を見て、ツギさんは、
「お、俺、耳がいいんだ、臆病者だからさ、物音とかにさ敏感になっちまう」
そう言って、グッグッグって笑う。個性のある笑い方だよね、なんか洋画に出てくるわかりやすい悪役みたいな笑顔だよ。
「こりゃあ、隠れて会話もできませんね」
って角田さんが言うと、
「ああ、ごめんな、聞がながったごとにずればよがったか? 気がぎかなくてごめんな」
と言ってまた笑う。
「やっぱりこの人怪しくないですか? そんな事を言って、秋様たちをハメる気なんですよきっと」
例えそうだとしても、宝箱を開けてくれる人がいる以上、僕はそれにすがりたいんだけどな、ただ、面白いのは、角田さんも、春夏さんもそれほど警戒していないってことかな、この2人、こう言うことには敏感な人たちだからさ、何も言わないってことは安全じゃあないのかな、って僕は、少ないダンジョン生活の中で培ってきた経験からそんな風にも考えていた。
「じゃあ、二、三個宝箱出して見てぐれよ、そうしたら証明すっがっらさ」
ツギさんあ、相変わらず疑いの目を隠そうともしない桃井君を見て、そんな風に言った。 少なくとも、宝箱を開けれるって事を証明しようって事らしい。
「まあ、ごの辺の宝箱なら、む、無料でいいよ、だ、大ザービスだよ、グッグググ」
ひとまず、僕は、せっかく証明してくれると言っているので、次の扉のある部屋に向かうことにする。
次の扉って言っても、もう見えているしね、この奥に。
さして警戒もしないで僕らは進んでゆく。
そして、1つ気がついたんだ。
ツギさん、サ行も偶に濁るんだな。
そんな思いを心に押しとどめて、僕は新しい扉を開いた。
あれから2回ほど、扉を開いて、モンスターを倒して、宝箱を2つ回収して、ツギさんに開けてもらったんだけど、本当、この人すごいよ。
まるで、今しがた宅急便で届いた中身のわかっている通販の箱みたいに、無造作に開けている感じでさ、それでいて罠なんて全く作動しないんだよね。