第20話【善悪の問題じゃない、宝箱をあけられるかなんだ】
ツギって人が僕の名を問うから、
「いえ、真壁秋ですけど」
「だ、だから、真壁アギだろ?」
「いいえ、真壁、秋、アキですよ」
「????」
まあいいや。
「で、何か用ですか?」
多分、年上だね、一応敬語を使って見る。
すると、彼、ツギさんは笑って、
「お前たち、宝箱、開けられないのな、面白い開け方見てたぞ」
と笑いながら言った。
そうなんだよね、あの『よいとまけアタック』の事件から、ギルドの宝箱の開け方講座とかにも参加して見たんだけど、そのに参加した9割の人間が開けられる擬似罠の解除が僕を含む、このメンバーでは全く皆無と言っていいほどできなかったんだよね。ことごくギルドが用意してくれた擬似罠を発動させて、真希さんに大笑いされていた悲しい先週の日曜日だった。
「そうなんですよね、向いてないって言うか、僕らにその適性とか皆無なんで」
そしたらツギさん、
「ご、ごの階層ならいいげどな、ごれから真ん中ぐらいに潜ったら、そ、そのやり方では通用しなくなるど」
まあ、いつか誰かに言われると思ってた。それが今日で今だった。
そうなんだよね、自分たちに開けられない以上、開けられる誰かを入れるしかないんだよね。
悩ましい問題に、ツギさんは驚くべき提案をした。
「俺、開げてやろうが?」
ん? それってつまり?
「俺がお前たちの出した宝箱を開げてやるよ」
「マジですか?」
「タダじゃねえけどな」
そうか、有料って話だ。この辺は交渉の価値ありだ。
もう、これはまさに、ザ・渡りに船。乗り逃した市電の後ろから次の市電がもうすでにきている感じに他ならない。ああ、これで宝箱をとり逃がす我慢がストレスが無くなる。
と、感激している所を、
「ちょっと秋様、あれ、あの人、あからさまに怪しいですよ、なんか得体もしれないし」
それを君が言うの? まあいいけど、今いるメンツでも正体不明な人は他にもいるから、ま、大丈夫だよ。
全く警戒をしていない僕に桃井君が、
「あのおじさんにも言われてますよね、ダンジョンウォーカーにも窃盗団の人がいるって、怪しいでしよあの人、あの容姿にこのタイミングですよちょっとは警戒してくださいよ、絶対秋様の剣を狙ってます、王者の剣狙いです」
ああ、この子また僕の影に潜んでいたな。出てくればよかったのに、桃井君、あと僕の剣の名前、今、ファンクラブで募集中らしいよ、冴木さんが張り切ってたよ、どんな名前になっても性能が変わるわけじゃないからいいけどね、それにしても、なんかヒョイヒョイこの子僕の影に入るなあ、まあ別にいいけど、そのうち、常に桃井くんがいるのがテンプレになりそうな感じがする。実害があるわけじゃあないからいいけどね。
そして、春夏さんと角田さんは、
「秋くんがいいなら」
「秋さんがそれでよければ」
って感じで僕に一任だよ。
そんな微妙な立場のツギさん、
「げ、結構、いい剣だね、それ、ダンジョン産じゃなさそうだな、高そうだ」
「ほら、言わんこっちゃない」
って即座に反応する桃井君だよ。
まあね、ほんと、ツギさん含みがあるような笑い方だもんね、そう思われるのも無理もないって気はするけど、今の僕の思考を支配しているのは『宝箱を開けられる』っていう一点だけなんだ。
この世の中には2種類の人間がいて、それは宝箱が開けられる人間と開けられない人間なんだよ桃井君。
そして、悲しいことに僕たちは前者、そしてツギさんは後者なんだよ。
「見た目や雰囲気で人を判断してはいけないよ、ツギさんは、カ行が濁るだけで、悪い人ではないような気がするようなしないような、どっちだろ?」
と率直な感想を言って見た。
するとツギさん、
「あ、ありがとな、でな、早速、頼みがあるんだ」
一応、話は聞く。
「実はな、ごごから下に2つ下がった階層に、変な宝箱が出たんだよ、それを開げたいんだげどな、その宝箱にはそれを守るモンスターがいるんだ、お、俺じゃ、それ倒せない」
なるほどね、確かにツギさん、戦闘向きじゃあないね、至って普通の格好だし、武器の装備とかないし、腰に下げているのは、多分、宝箱を開けるための工具のセットらしい、持っている物って言えばそのくらいの物だった。