第19話【鍵師 ツギ 登場】
これって、この前の時さ、同じクラスの委員長でダンジョンウォーカーの葉山さんに聞いたんだけどさ、宝箱に罠が設置されている事を知る事ができる魔法は結構あるけど、罠の種類を判別する事ができる魔法を使える人ってのはあんまりいないんだって、しかも、識別不明の品物を鑑定できるピンポイントなスキルってのも相当珍しいらしい。
委員長にはかなり感心されてしまったよ。やっぱりすごいんだね角田さんって。
「スプリングホッパーですね」
つまり宝箱の中身が飛び出して来るってやつね、一般にびっくり箱って言われるやつ。
中に入っているものによってはこの前の僕の様に、解呪できないレベルで視力を奪われてしまった奴ね。でもまあ、びっくり箱ってわかっているんなら対処のしようもある。
真上に顔を置いておかなければいい。覗いたりしなければ安全って話だ。
「ちょっとみんな離れてくれる」
僕はそう言って1人宝箱に近づいて行った。
ソーッと箱を、ゆっくりと焦らずに開けて見る。
ビヨヨーンと、中身が飛び出す。まあ、慌てず騒がす、きちんと対応すると、このスプリングホッパーっで罠、なんか間抜けだね、距離をとって見ると、あれほど衝撃的なスピードに感じたよいとまけだったけど、今回のは葉っぱみたいなものが、割とのんびりした速度で飛び出して、落ちる所を拾って見る僕がいる。
「なんだこれ?」
数枚の葉っぱが束ねられている物だ。
もしかして、これが世に言う『薬草』なるものなのかな?
あの、RPGなんかでさ、割と安価で入手しやすくて、効果は小さいけど、それでいて終盤まで持って行ってしますってあの薬草かな?
僕の手の中にあるそれを角田さんはジッと見つめて、
「ギョウジャニンニクですね、ヤマニンニクとか言われてます、北海道ではアイヌネギって言われているのが一般的です、食べられますよ、美味しいですよ」
ああ、知ってる。よく食べたな、口臭くなる奴だよね、美味しいよね。確か人によってはゴブ新鍋に入れる人がいるって言う話だけど、緑のものはちょっとね、僕は嫌だな。
「で、これ食べるとヒットポイントとか回復するのかな?」
「いや、秋さんHPとか無いでしょ、と言うか一般の人間いHPとか言う指標はないですよ、無いものは回復しませんよ」
なんだ、北海道ダンジョンで薬草ってアイヌネギなのかって思っちゃったよ。
そっか、じゃあどうしよう、一応持ってくか、とポケットに入れてみた。
そんな時だった。
不意に僕らの背後から声がするんだよ。
「ググッグ」
ってなんか変な笑い声。
不意に、だけど、全くもって敵って感じの例の感覚はない。
一番後ろにいて僕らの戦いを観戦していた桃井君が、「ヒィ!」って短い悲鳴を上げて、僕の背後に隠れてしまうくらい不気味な声。
僕らの入った小部屋の扉、その外側から、ジッと僕らを見つるめる二つの目があった。
「誰です、名を名乗りなさい!」
と桃井君が僕の背後から顔だけ出して叫んでいる。
すると、のそっと、その目の持ち主は室内に入ってきた。モンスターじゃない、僕と同じダンジョンウォーカーだ、この人。
「や、やあ、初めまじて、俺、久能 次男、みんなにはツギって呼ばれてる」
ひょろりとした長身、長い手足、でもひどい猫背で伸びっぱなしみたいな長髪からはやけに大きな三白眼が僕らの方を見つめていた。
「ダンジョンお疲れ」
一応、ダンジョンでの普通の挨拶をして見る僕がいる。
「あ、だ、ダンジョンお疲れ」
敵意とかはないみたい。ほら、最近、浅階層で色々あったからさ、どうも用心深くなってしまうよ。
ま、それにしても、なんて言うか、その、いつものことなんだけど、一つの疑問が。
初めまして、って言ってたけど、本当に初見だよね、この人、ほら、僕、人の顔を覚えないなんて言われてるじゃない、だから、ちょっとこういう時ってもしかして忘れているだけじゃないかって、独特の緊張感というか、ぶっちゃけ疑ってしまう。自分が信用できないって、悲しいよね。
一応、自己紹介をしようとして、
「僕は」
って言いかけると、
「グッグッグ、知ってる、知ってる、真壁アギでしょ、知ってる、有名だよ」
形容しがたい笑い顔。
人のいい悪人笑顔?
なんだかわからないや。