第17話【優先すべきは愛する人】
まあ、切れるなあ、この剣とか思っていたけど、そんな凄い剣だったんだ。どうしよう、僕、そんな凄い剣で、夕張メロンピュアゼリーの蓋とか開けちゃったよ。その後公園の水で流してしまったよ、さらにこの前は傘立てに放置しちゃったよ、ちょっと考えよう。
「少年、まさか玄関の傘立てとかに入れてないだろうな?」
ほんと、凄いドキッとした。見ているんじゃあないかって思った。最初のうちはそうだったけど、今は違うよ、それに今日から一緒に寝るよ。一応否定のために必死で首を横に振る僕だよ。違う違う。そんなことしてないよ。
「それでな、その剣が例の広域窃盗グループに狙われているってのは話したよな」
「つまり、用心して盗まれないようにしろよ、って事ですね」
「そうだ、でも一つ言っておく、今こうしている時とか学校とか日常なら俺たちがカバーできるが、ダンジョンに入ったら、もう、自分で守ってもらうしかない」
え? それってつまり?
「その窃盗グループの中には、未だ未確認な情報ではあるが、高レベルのダンジョンウォーカーが確認されている、残念ながらそれが誰かがわからないが少なくとも、いまもダンジョンに出入りしている人間が含まれているのが事実なんだ」
つまりは学生、というか12歳以上18未満の方が、その窃盗団の中にいるってこどだね。
「まあ、せいぜい気をつけてくれ」
と言うだけ言って、すっきりした顔をしている拓海さんである。
「なんか、投げやりな言い方ですね、最後だけ」
「いや、だって、ダンジョンの中なら、俺、責任ないしな、大柴マテリアルからはきちんと嬢度の意向もいただいたし、もういいかなって事さ」
なんか無責任な感じだ。放任された感じだ。
「でも、今の話によると、この剣を奪われた場合、国益に反するって事ですよね? それはいいんですか?」
すると、拓海さん、普通の驚いた顔をして、
「国益って、結構難しい言葉を知っているんだな、お兄さん感心したぞ」
と、少しだけトウのたったお兄さんはそんな事を言った、と言うか、中学生をバカにするな。
「でもな、何事にも優先順位というものがある、この場合、何を優先するべきか、という事だ、わかるだろ、少年」
「だから、国益でしょ、他に何が」
「少年、君は若いなあ、若い、若すぎる、小さいと言ってもいい」
いや、小さいは違うだろ、ってか馬鹿にするな、くそう、身長、今年であと20㎝は伸ばしてやる。
拓海さんは、本当にやれやれって顔をして、
「いいか、少年、ここで一番大事なのは、翔子ちゃんがどう思うか、なんだ」
??????
本当に、この人が何を言っているのかわからない。
「だからさ、翔子ちゃんが直接、害が及ばぬようにするのが絶対上位順位な訳で、国益なんて、もうどうとでもなるじゃん」
うわ、こいつ、国益よりも自分の婚約者を優先しやがった。
「愛する人も守れない人間が、国益なんて守ってられる訳ないだろ」
でもちょっとだけわかった。
「こういう人だから、冴木さんの尻に敷かれるって感じになってるんですね」
遠慮とかしないで口に出して言っちゃうよ。もう。
「何をいうか!」
って言ってから、
「いいか、よく覚えておけ少年、男は愛する人の尻に敷かれてこそが本懐なんだ。君もいずれわかる時が来る」
「尻に敷かれずなんの人生かというお話だ、君は僕と同じ匂いがする、頑張りなさいよ」
てな事を言われた訳だけど、さっぱりわからない。
ダンジョンに入ってからも、なんか拓海さんに言われた事を思い出してた。
そんな事を考えていた僕は、何となく前で戦ってくれている春夏さんのお尻を凝視してしまっていた見たい。いけないけない、これじゃ変態さんだよ。
「え? なに? 秋くんなに?」
ってその視線に気がついた春夏さんに思いいきり変な目で見られてしまった。
いいや、違うんだ、どんな感じかなあ、って考えていたら思わず物理で身近にいる女の子のお尻を見てしまっただけなんだ。
「いや、怪我はもう大丈夫かなあ、と」
「もう、すっかりいいよ、休んだお陰、秋くんのおかげだね」
よし、誤魔化せた。
「秋さん、そろそろ戦いませんか?」
なんて、苦言を呈してくるのは、角田さんだ。
「秋様、ファイトです」
桃井くんはいつも通りだね。
今、僕らは中階層、地下2階で、今日4回目の室内侵入で、モンスターと闘っている所。