第16話【最強とかいいから、その問題は値段】
そんな恐縮する僕を他所に、なんか、もっと真剣な顔になって、多分、それはあまりいいニュースじゃないって、そんな表情になって拓海さんは言うんだ。
「そして、今回、俺が北海道に来た理由が、君に譲渡された剣な、実はある世界規模で暗躍する広域窃盗グループが狙っているって言う情報が入ったからなんだ」
世界規模?? 広域? 窃盗?? グループ???
「ここからの話は一般には機密事項なんだが、君は持ち主として概要だけは説明しておく」
なんだろう、僕はこの人と会うのはこれで2回目なんだけど、今までの表情とはまるで違う顔。もう別人と言っていい。あの時、冴木さんに翻弄されて、寿司を奢らされて涙目になっている人とは同一人物とは思えなかった。多分、これが拓海さんの『仕事』をしている、俗に言う、『男の顔』なんだなあ、って思った。なんかかっこいいよ。
「昨今、ダンジョンから出る、所謂『アイテム』がこの国はおろか、海外でも高値で取引されているのは知っているかい?」
首を振る僕。
「そうだろう、一応、この辺については情報統制されていてな、諸外国も、機能的にダンジョンから出るマジックアイテムの輸入は禁止している。そりゃあそうだろう、なんでもありだからな、こんなものを使われた日には未解決事件が山のように気づき上がる、治安の問題上、北海道民以外にはその存在すら知らぬ国も珍しくない」
ああ、なるほど、でも情報統制されているのは初めて聞いた。
「アイテムそのものの取引の禁止、ダンジョンウォーカー同士以外での物流を禁止している」
確かに、ダンジョンから出た物を買うって業者はいない、レアメタルなんかぐらいだ。
「それでも貴金属くらいは流通してしまってるけどな、レアメタル関して言えば、世界の流通量から考えればあまり影響がないので、こちらの方は北海道や国は喜んで流通が叶っているのが現状だよ、資源少ないからな、この国は」
思わず、ダンジョンを経済的な目で見ている視点を与えられて、僕としては目から鱗が20枚くらい落ちた感じだ、なんか大人だなあ、拓海さん。まあ31歳だから当たり前か。
「話は逸れたけどな、その中でも、武器や防具に関して言えば今のこの世界にない技術や技法なんかの宝の山なんだよ、北海道ダンジョンは」
そこまで聞いて、僕は、アレ?って思った。
「ちょっと待ってください、僕が今回嬢度されたこの剣て、純粋に大柴商事の製品なんでしょ? だったら対象外じゃあ」
すると、拓海さんはコーヒーをひと啜り、
「まあ、待て、話は最後まで聞け」
「あ、はい、すいません」
「お前、結構素直だな」
「まあ、そんな中でな、結局、北海道ダンジョンから持ち出されるアイテムはな、解析はできんのよ、よって生産もできない、つまるところは、持ち出されても、その一つで完結してしまう、つまり、よっぽど個人的に主だった使用目的がない限り、コレクターアイテム止まりなんだ」
つまり、持ち出されても意味がないと。
「それでも一部の熱狂的な人間からはかなりの高値で取引されているんだけどな、まあ、今の話は、この話じゃない」
と言ってから、拓海さんは話を続けた。
「その剣はな、この国の骨幹を支える産業が、一部の生産ラインを止めて、作り上げた、いや今まさにその作り上げようとしている『兵器』なんだ」
正直、そんな大げさな、だって、これ幾ら何でもどんなに高価でも、結局は一振りの剣だよ、スケールがデカすぎる、そんなバカなって感じで、驚くと言うか呆れてしまう僕がいる。
「まあ、いろいろ思うところはあるだろうけどな、実際、この国の技術の突端、世界に類を見ないレベルの研究者たちが各地の一流と呼ばれる大学の研究所なんかも巻き込んで作り上げている剣なんだよ」
だめだ、ピンと来ない。
「だから、この剣を構成する金属、刃の形状、その他諸々余すとこなく、莫大な富を生み出すって事なんだよ、しかも軍事利用に転用可能な技術の結晶でもある、手に入れたら買い手なんて星の数だよ、売値も青天井だよ」
ほら、僕って中学生だからさ、この辺の言い回しとか、まして自分の持ってる剣がさ、値段が青天井なんて言われてもピンと来なくて、だから、
「具体的にはどのくらいの値段なんですか?」
なんて聞いてしまった。
すると、拓海さんは、
「いや、値段といわれても、その剣を奪取しろと依頼してるある組織が唯一具体的な金額を出してるんだが……」
とちょっと思い出すようにして考える拓海さんは、
「確か、10%の前金で、10億ドルだったかな、日本円にするならそれに100を掛けるといい、だいたいそのレートだよ」
なるほど、ピンではなくて、ポンと来ました。
「もちろん、表立ってよその国からの直接ってことはない、しかし盗まれた物が持ち込まれるってことはよくあることだろ」
諸外国が国ぐるみで求めている剣って、ちょっとそんな大げさなって思うけど、拓海さんの真剣な表情から察するに、冗談を言っているわけではないってのはよくわかった。
体がうすら寒くなってきた僕は、アイス抹茶ミルクを人啜りして、こんな事ならホットでもよかったなあ、なんて思ってたよ。