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第11話【罪と罰と痛みに悦ぶ】

 すると、雁首そろえた、君島くんさんのお友達の1人が、「キエエー」とか雄叫びをあげながら、僕らに向かって突進してきた。


 真面目にさ、みんな君島くんさんと同じような年代でさ、中にはもっと年上の人もいるんだけどさ、いい大人が中学生相手に何やってんだよ、って正直思う。


 「秋様、ここは僕が、とさっきも申し上げました」


 その突進してくるいい歳した君島くんさんの仲間を迎え撃とうと前に出ようとすると、桃井君にそんな風に言われた。


 いやあ、でも、結構な体格さあるよ、大丈夫?


 「おい、ばか止めろ!」


 と以外に君島くんさんも止めようとしているみたい。彼もね春夏さんにどう思われるかを思えば、それほど事を荒立てようとはしていない筈だから、その辺は理解できる。 


 でもその人、君島くんさんの制止なんて全く聞かないで、木刀を振り上げで、突進してくるんだけどね、その勢いが、僕の前に立つ桃井君の直前で止まってしまった。


 唐突に、徐々に勢いがなくなって行って、本当に桃井くんの前でピタッと止まってしまったんだ。 そして、立っていられない感じで、体を屈め、ひざまづいて、手から木刀を落とす。


 そして、うずくまるように首を垂れて、低い悲鳴をあげていた。


 なに? 一体なにをしたんだろう?


 僕には桃井君が攻撃したようにはとても見えなかった。


 ただ、突進してきた人、桃井君に近づくに連れ勢いをなくして、こうしてうずくまっているんだ。今は桃井君の前で土下座しているみたいな感じ。


 先ほどの桃井君の言葉を借りるなら、殉教者がその教えを請うために、高僧に自らの立場を指し示すべく、地に這いつくばるように、身をかがめ、じっとその時を待つかのような姿。それが、桃井君と、桃井君を攻撃しようとしてきた人の姿だ。


 「痛いでしょ」


 桃井君は言った。


 「それはね、あなたの罪なんですよ」


 桃井君の前にうずくまる男は、何も言えない。何もできない。できるのはただ桃井君の話を聞くくらいだ。


 「怪我はね、その人が自身を傷つける己の罪なんですよ、その贖罪が許されぬまま、あなたはまた新たしい罪を、しかも次々と」


 やれやれ、と言った顔して桃井君は言う。


 「しかも、傷は歪に醜く修復され完治する事なく、これでは、罪は一生贖えないものとしなければならない、何にものにもなれない者たちが、競って罪を犯し、それを鈍い贖罪で埋め続ける、これを狂信者の巡礼と言わず、何と言うのでしょう、秋様」


 ごめんなさい、言っていることの殆どが理解できない僕がいる。


 って言うか、今、この現状、一体何が起こっているのか理解できない。多分、魔法なのかな、桃井君の持つ魔法スキルがこの蹲っている人に苦痛を与えているのだろうか?


 桃井くんは、先ほどの姿のまま、肩に蛇の杖を軽めに掲げて、そして、苦痛に歪む男の人の顔を見下げている。


 「これが桃井君のスキルなの?」


 「はい、でもここではその一部しかお見せできないのが残念です」


 一体何が起こっているのかまるで理解できない僕に気を使ってくれたのか、桃井君が説明してくれる。


 「僕は、ただ、この人の『傷』を返して差し上げただけです。体を刻んだ苦しみや痛み、かつて傷ついた段階まで、その損傷を戻しただけです、加減はしていますよ、僕の気持ち一つで、痛みを追加したり、大きくしたりもできますから、怪我した時に戻って呻いているだけですよ、生きている痛みに喜んでいるみたいですよね」


 そう言ってから、中空に視線を泳がせて、まるでそこにありもしない言葉を探しているような仕草を取ってから、


 「ああ、そうだ、つまりですね、秋様、僕、人の傷を広げて粗塩とかぬりこめるような事ができるんですよ」


 とポンと手を叩いてからそんな事を言ってくれた。


 いやだ、何それ、怖い。


 そして、蹲る人に向かって、


 「それに、感謝してくださいね」


 と、今まさに自分が苦痛を与えている人間に向かって言った。


 「この時点から、きちんと直せばもうさっきみたいに自分の足を重く感じる事もないんです、傷も治りきらないうちに、こんなお遊戯に参加したらダメですよ」


 ああ、そう言うことか、怪我した段階まで戻して、もう一回しっかりと治せる機会が与えられた訳ね。ってこの人たちが真剣に取り組んでいる剣術をまたお遊戯とか言っちゃったよ桃井君。


 あ、でもなんか反応薄い。と言うか、今まで怒ってた人も、僕と桃井君を取り囲んでいた武闘派な方達、すっかり毒気を抜かれてしまって、僕を襲ってくる気配なんてまるでなかった。まあ最初から、この人たちに僕らに対するイラつきはあっても、殺気なんてまるでなかったから、最初からおどかすのが目的だったんだろうとは思うけどさ。


 そんな中、君島くんさんあたりは、こちらに向けてくる敵意みたいなものは全然萎えてなくて、褒めても何だけど、さすがかな、って思った。


 それでも、


 「あの、用事ないんじゃ、帰ってもいいですか?」


 と下手に出て、訪ねてみると、


 「いいや、それはちょっと待ってくれ」


 とどこからとももなく聞いたことのない声が響く。聞いたこないよね、たぶん初見、というか初聞だよね。多分、初対面。ほら、僕人の顔を覚えない奴ってイメージがあるからさ、そんな事はないんだけどさ、ちょっとこういうことには気を使ってしまう。


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