第10話【辛辣に喜びに讃える】
ほんと、中学生相手によくやるよ。大学生がやることでもないよね。
ひとまず、僕は桃井君を守るために前に出ようとするけど、その僕を制して、桃井君がスッと前に出る。
「ここは僕にお任せ下さい」
おおっと、桃井君の秘めたる真の力を見る機会に恵まれたようだ。ちょっとワクワクして来た。
「みなさん、お怪我されている方が多いみたいですけど」
と桃井君、僕らを取り囲む札雷館の武闘派(?)の方々をザッと見回してそう告げる・
「当たり前だ、皆、毎日稽古で生傷の絶えない練習をしているからな、ダンジョンで弱い魔物と戦っているお前達とはワケが違うんだよ」
と、今度は君島くんさんじゃ無い人、結構いかつい人がそう教えてくれた。
「ああ、良かった、僕、今日は秋様のお役に立てます」
と桃井君はいつものローブから、手を出す。その手にはあの蛇のリレーフの着いた杖が握られている。
「みなさん、本当に頑張り屋さん達ですね、骨も肉も治りきらないうちに無理してるみたいだから、歪に伸びて、日々、弱くなるて為の修練を続けているんですか?」
と、ほとほと感心と、ため息をついてそんな言葉を続けて言った。そして。
「みなさん、お遊戯で体を痛めつけるのを楽しんでおられるんですね、こう言う世界もあるんですね、愚かで知識の乏しい若輩者の僕には考えもつきませんよ」
最初は皆、桃井君が何を言っているのかわからなかった。
だから、ポカンとして、この容姿の整った、見た目に女の子みたいな中学生の少年の言葉をなんの反応もできずに聞いていたんだ。
でも、遅れて彼の言った内容、その意味、言葉を理解できると、その柔らかい声、言い方とは裏腹な辛辣な内容がはっきりと心に残置される。
普通に考えれば、武道に勤しむ者に対して、その道を遊戯、そして努力を徒労と言われれば、その言葉は相手にとっては挑発以外の何物でもない。
さすがにその辺はなるべくなら穏便に済ませて、代表戦とかで、軽くサクッと終わらせようかな、って着地点を探っていた僕だけど、桃井くんは綺麗に満面なくズラッと全員に喧嘩売っちゃったよ。今更だけど、
「あの、桃井君、あんまし皆さんを刺激しては…」
「え? 心外だなあ、秋様、僕はみなさんを褒めているんですよ」
「とてもそうは聞こえなかったけど」
「だって、すごいじゃないですか、ここにいる皆さん、才能のカケラもないんですよ、それなのに、自分の体を壊すほどの労力を使って、世の中になんの役に立ちそうも無い何も得られない努力を日々積み重ねていくなんて、まるで、強い信仰に支えられた殉教者のようです、素晴らしいです」
と、桃井君は僕に向かって目をキラキラさせながら僕に告げる。
この子、マジだ。
桃井君ってナチュラルだよ。多分、オーガニックな育ちだ。
この前、春夏さんを王妃って呼んだ時も、多分、自分置かれた立場とかでもなく駆け引きとかじゃあなくて、桃井君には本当にそう見えたんだろうね。
そしてそんな思いを迷わず口に出してしまえるのがすごいと言うか何と言うか、多分あらゆる方面に多角的に素直で良い子なんだね、桃井君。
本当に擦れてないよね。
まるで、ついこの間、初めて世界に出てきたみたいな、そんな純粋さを桃井君はもっているんだね。