表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/1335

第7話【アントシアニンがいっぱい】


 僕は、それを剥がして、目を開いて見てみる。


 僕の手に落ちたそれを、僕は素手で持ってしまった事を酷く後悔した。


 「『よいとまけ』だ、北海道銘菓、『よいとまけ』だ」


 ぶっちゃけると、ハスカップジャムを贅沢に余す事なくふんだんに使ったロールケーキというかロールカステラなんだけど、この『よいとまけ』の違うところは、外側にも、僕の顔についているハスカップジャムを塗りたくっているという所、たぶん、世界で一番食べにくいスイーツだと思う、美味しいけどね。


 「スプリングホッパーですね、中に入っている物が刃物とか、魔法と封じたルーンとかで、だいぶ危険度は変わってきます、良かったですよ、お菓子で」


 と若干呆れて角田さんは言う。


 まあね、飛び出てくるのが『よいとまけ』じゃあ、僕のビビリセンサーも感知できないし、避けられないよ。不覚にも思いっきり食らってしまった。いやむしろ、食うのは僕の方か、折角だから美味しくいただくよ。でも最近の『よいとまけ』ってカットタイプが主流って聞いてたから、このまるまんま1本てのはちょっと最近じゃ珍しいよね、三星さん、このダンジョンの為に生産しているのだろうか?


 「秋くん、顔がハスカップジャムだらけ、美味しそうになってるよ」


 と春夏さんが笑いを堪えながらいいう。いいよ、笑いなよ、笑えばいいよ、僕もさっき、箱被った春夏さん見て笑っちゃったからさ、いいんだよ、抱腹絶倒しなよみんな。


 なんて思っていると、今度は目に激痛が走る。


 「ぐわああ!」


 とか変な声だしちゃった。


 「秋くん!」


 「ハスカップジャムが、目に、目に!」


 本当に痛くて、思わず目をこすったら、余計に沁みて、もう、僕、大パニックだよ。


 その手を多分片方を春夏さん、もう片方を桃井くんによってもたれってしまう。


 「秋さん、ハスカップジャムは『毒』ではないので、俺の魔法スキルでは解毒も治療もできませんよ」


 「秋様、目をこすってはダメです、我慢して、あ、ハスカップってアントシアニンがブルベリーの約10倍ですから、良かったですね、秋様」


 なんのフォローだろう? 今、その知識必要?


 本当に痛い。


 何も見えないで、春夏さんと桃井くんに手を引かれて、こんな形で中階層の一日目が終わるなんて、


 「くそう、トラップめ!」


 今度は、トラップとか罠とかを解除できる人を仲間にするんだ。ギルドの講習会だって参加するよ、いいね、みんな。


 と言おうとしたら、


 「はい、秋くん、あーん」


 と春夏さんに言われて口を開けると、そこにハスカップの芳醇な香りと、やわらく上品なカステラの甘みが口の中に広がっていった。


 美味しいなあ、『よいとまけ』。


 今度は、『ななかまど』出てこないかなあ、本当に、涙の中層階になってしまった僕だった。


 もう、目が開けなくて、目をつぶったままの状態でさ。


 その日はそのまま、春夏さんに連れられて家に帰って、春夏さんは、家につくなり玄関に僕を置いて、目薬買ってくるって、家を出てしまって、ポツンと家にいると、母さんがやってくるんだよ。


 だから僕は思わず、


 「母さん、春夏さん、近くのツルハ(北海道ではメジャーなドラックストア)に行くって行っちゃったから、何も見えなんだ、ちょっと手を貸してよ」


 と説明した。


 すると母さんは、僕の前でジッと僕を見ている感じでさ、なんか反応薄、とか思っちゃったよ。


 でも、まあ、目も開かないし、僕は手を引いてよって手を出してみると、ちょっと母さん反応悪かったんだけど、それでも手を引いてくれるんだよね。


 でも、なんとなくだけど、またしょーもない罠にひっかかってなんて思われてるんだろうなあ、っておもいつつもさ、


 「宝箱開けたらさー、ヨイトマケが飛び出して来てさー」


 愚痴をタラタラと零してしまう。


 「ヨイトマケは美味しかったんだけど、目をこすっちゃってさ、腫れてるんだ、ほっといても治るって言っても、春夏さんが心配してさー」


 とここまで喋って、


 「お母さん、聞いてるの?」


 母さんもしかして、怒ってるのかなあ、こういうところ割と鋭いし、角田さんも忠告してたの無視して無謀の事したの僕だからさ、こういう一連の流れとか想像されてそうな気もする。


 でも、まあ黙って聞いていてくれるのなら、いいさ、もうどんどん不満を言ってやる。


 「だいたいさ、中階層のこんな浅い階から宝箱に罠って酷くない、僕まだ初心者なのにさ」


 そしたらさ、母さんちょっと手に力を入れてきたんだよね。


 ああ、そっか、もう中階層だから、自分を初心者とかはダメか、って思ってちょっと反省した。 


 まあ、これがさ、ハスカップジャムでなくて、僕が予想だにできない危険なものだったらって考えると、僕のとった行動はあまりにも浅はかだ。


 だから僕は思うんだよ。ダンジョンウォーカーだからさ、こういう甘えはダメなんだよ。


 って黙ってると、母さんはポンポンと僕の頭をなでてくれた。


 やめてよ、子供じゃないんだからさ、今はここ反省して落ち込まなきゃだよって思うけど、でもなんかうれしかった。


 「まあ、そりゃあさ、僕も少しは悪いとは思うけどさ」


 そのまま母さんは僕をソファに座らせて、何故か2階に上がって行った。


 どうしたんだろ? なにか用事でもあったのかな?


 独りぼっちでソファに座って、たたずんでいると、今がいつだかわからなくて、不安になる。


 もちろん、泣いたりはしないよ。そんな話でもないしね。


 いや、悲しいんんじゃないよ、ハスカップジャムが眼に滲みるだけだから。

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ