閑話休題2-17【集え!王麾下の精鋭達!囚われの仲間を救え!】
さっきのは見間違いではない。そしてこれも、成長なのではない。何かが影響している。自分の能力を最大限に発揮する事ができる何かが起こっていることが奏にはわかった。
「真壁先輩に言われたら、なんかできるきがしてきたわ」
と、目をキラキラ(奏目線)させた雪華が言う。
はいはい良かったね、って言おうとする奏は、その雪華の変化に、『彩眼』によって気づいた。
雪華の体の表面に薄ぼやけた光の膜のような物で覆われている。本人にその自覚はまったく無いようで、変化に気がついている様子もない。と言うか、あの残った男子、水島と西木田にもだ。もしやと思って奏も自身を見てみると、まさに自分もその光に包まれていた。
この光、多分、その人間の持つスキルや能力を十二分に引き出すものだ。スペックの上乗せどころかポテンシャルまで引き出されているのがわかる。
「なるほどね、これが、相馬さんの見ている世界か」
と秋が言う。
どうやら、一定の情報ではあるが、それなりに共有化もできるようだ。
「私にも見える、すごいね、どうしてだろ?」
向こうの男子は、「うわ、何だこれ、気持ちわりー」とか「服は透けて見えないな」などバカな事を言っている。
それを見る奏は、あんなやつらですら、身体能力が上がっている事がわかってしまう。
これは、『王』と言う名のスキルの一つ『麾下』である事を、この後、このスキルを持っていた麻生から教えてもらった。
秋の指揮下に入る事を決めた時、彼らは、この王の前で、この時だけ、王を守護する最強の戦士となり得たのだ。
王直下の精鋭、とその王。
同期は完了した。
「じゃあ、行くよ」
と、護るべき王が、そのまま突っ込んでゆく。
春夏と体を入れ替え、鴨月が転じた化物の攻撃を一気に受ける。
「トドメは春夏さんがお願い、メガネ君を傷つけないようにできるでしょ?」
春夏の能力に完全に依存した物言いに、「うん、わかった」と一瞬で戦域を離れる。
結構強い攻撃力、よく、こんなのを木刀で受けていたよなあ、と感心する秋であった。
3回ほど攻撃を凌いで、何となく、この化物の攻撃パターンが読めた秋は、引くところは引いて、押すところは押して、打ち合いの流れを支配しだす。
そして、左手の一撃を流して、さらに同一方向に隙を作って、攻撃を誘った時、完全に、雪華や奏、水島に西木田から、その化物は背を向ける形になる。
「ここだ」
秋から放たれる意識。
王麾下の精鋭たちはその判断に従い、行動を開始する。
右半身を、奏、そして雪華、左半身を水島、西木田。
速度の関係から、奏の剣、細身の長剣『ハースニール』がバケモノの右足を切り裂くもちろん鴨月の体に干渉しない箇所だ、だから無意識に手加減が入ったのか、切断には至らない、もう一撃と思ったところに、バケモノの右手が奏を払いのけようと降りかかってくる。
その瞬間、何とか雪華のポラリスが受け止める、このバケモノは生き物の形をしているが、特に鴨月を取り囲む請負頭の集合体は生き物としての程をなしていないのでメディックが使えない、当然、華奢な雪華の力押しになる。
いつもなら、一撃で吹き飛ばされるくらいの攻撃は、麾下の雪華にとっては大して事の無い攻撃になる。
「大丈夫、行ける」
受け止める衝撃はポラリスの中で次々に作用して、そのまま、攻撃してきた、覆偽体の腕に帰ってゆく、その衝撃で、化物と雪華、双方とも吹き飛び、化物は覆偽体を構成する請負頭であろう、鱗状の本体をバラバラに飛び散らせる。
「雪華!」
吹き飛んだ雪華を心配して、叫ぶ奏は、きっちりと、右足を切断。雪華に駆け寄ろうとするも、「いいから、そっちに集中して、私大丈夫だから」との声に、再び、化物の方を見ると、その化物の左足は、「ヒートスラッシュ!」と先ほどとは名前の変わっている水島の14回目の必殺技によって吹き飛んでいる。バラバラに飛び散らないのは、炎の剣で断ち切る前に、一度凍らせていたようだ。
何より、水島自身を驚かせているのは、この戦いにおいて、彼の、調子のいい時ですら100回に3回程度の成功率しかないエンチャントが、今回は100%だった事、合計、14回のエンチャントを試みて、全て成功している。
そしてそんな水島のフォローに入った左手の攻撃を受け続けた西木田は、今回の限り、100%のカウンターに成功している、しかも、いつもなら、自分の吸収力を超える攻撃力は、全てダメージになるのではあるが、今回は、それが全く起こらなかった。それに、何だろう、少しスマートな気分になっている西木田であるが、プラスマイナス0なので体重の変化はない。
そして覆偽体の化物は、ゆっくりと倒れる。
そこに、頭部に、とどめの一撃を放つ、春夏。
人を模す、この化物の一応の感覚、統率を行なっていた部分が破壊されたことで、請負頭はばらけて、その体から、包まれていた鴨月が出てくる。
ほとんどが、体の中心に収まっていたので、無事なのは奏の目でもわかっていた事だった。
しかし、完全に意識を失っていた。