閑話休題2-16【暴走する魔法スキル『覆偽体』】
あの日、そう、秋だけが真希にギルドに呼び出された日の事、真希に一つの可能性を示唆される。
「まあ、ないっちゃないけど、全く有り得ない話でもないんだべさ」
と歯切れも悪く、その可能性があと真希は言う。
「多分、今回の挑戦で失敗する可能性があるのは、鴨月重文、そして成功した場合、この『覆偽体』になっている可能性がある」
「よく分からないです、どう言う事でしょう、どうして、それで私と秋くんが同行するのでしょう?」
と質問をするのは春夏だ。
秋だけが呼び出されているのに春夏がいる。秋が呼び出された以上、春夏が必ずついて来ると言うのが正しい言い方だろう。あのような連名でメールが流れていると言うことは春夏もそれを知る事実があって、知った以上、秋を1人にはしない春夏でもある。もちろん、そこに突っ込む真希でもなかった。
「過去に何回かこれと同じことが起こっているんだべさ、過去の事例から見ても、今回は、鴨月重文は符合する箇所が多すぎる、で、もし、この『覆偽体』になった場合、あの子達では対応ができない、と言うわけで、アッキーを呼んだ訳だべさ」
最後に真希は言った。
「友達が友達を倒すわけにわ行かないべさ」
まあ、そういうことなら、仕方ないか、と、快諾した秋であった。
そんな訳で、
「ごめん、ひとまず、ここは僕、仕切るから、異論は認めるけど、その場合は勝手にやるから」
と秋が一言。
ここで、工藤真希言われていたことを素直に伝えれば、事は簡単に済んで筈ののだが、そんな事もおくびに出さないのが、この少年らしかった。
付いてくる人だけ付いてくれば良い。最悪、春夏さんだけでも協力してくれれば
、まあ何とかなるだろうという算段もあった。
この少年、そののほほんとした雰囲気にして言い方も柔らかいのだが以外に強気で強引なのだ。もちろん、秋少年にはその自覚は無い。
「つまり、あれは、『請負頭』に覆われた、意識不明の重の姿って事なのか?」
と、西木田が言う。言いながら、割といい一撃が入ってそれを吸収する。
本日の彼は食べ過ぎを自覚している、帰ったら走ろうかな、なんて考えている。
「わかった、重がたすかるなら何でも良い、言うことを聞く」
意外に1番早い賛同は、水島からだった。
確かに、この化け物を相手に、その中にいるであろう友達を助けるために意地を張っても仕方が無いと、以外に冷静に判断したようだ。
ただがむしゃらに倒すのではない、おそらくはこの中にいる重文を助けたい。でもその方法が全く検討もつかない。
この真壁秋にはそれがある。
あ
なら、それに乗る。そして、西木田も同じくそれに乗った。
「よろしくお願いします、真壁先輩」
と素直な雪華、そして雪華が行けば奏も行く。
春夏に至っては是非も無い。
「ありがとう、じゃあ、作戦を簡単にいうね。僕が惹きつける、君たちが叩く、割れて中からメガネ君を救出、わかった?」
「え?」
至るところ、行く先々で、聡明だと言われる雪華であるが、流石にこれは伝わらない。
「全然わからねーよ、どういうことだよ!」
と水島も怒る。
この中で唯一、頷いているのは春夏だけである。
ちなみに、春夏は、現在、1人で鴨月と思われる化けもの相手に戦っているというか凌いでいる。
「えー、わかんないかなあ、角田さんとかだったらバッチリなんだけなあ、でもまあ、大丈夫でしょ、君たちなら出来るって」
と不満タラタラしつつも、成功への可能性の示唆を忘れない。
「あのな、先輩、もっとわかりやすく頼むぜ、叩けって言われても、どこ叩けばいいんだよ」
「あれ、相馬さんて、目が良いんじゃなかった?」
「さっきも言ったろ、見たけど、あれ、同一体だった…。あれ?」
それでも素直に、もう一回、春夏と戦う『覆偽体』となっている鴨月の方を見る。そして今までとの変化に気がついた。
先ほど『彩眼』で見た時とは異なる光景が奏の目に映っていたのだ。
その大きめの体躯の中に明らかに違う色があったのだ。
「おかしいな、さっきは確かしに…」
思わず目を擦ってしまう奏だ。
確実に、異体としての二つの違いがわかったのだ。