閑話休題2-15【作戦名は、『大丈夫でしょ、君たちなら出来る』だ!】
西木田は、多分、自分が一番遅いな、と考えながら、その出口に向かうと、そこには想像もしなかった光景が街か構えていた。
「お? どういう事?」
「遅かったな、おわ! 急にびっくりするじゃねーか!」
「気抜いてんなよ、お前、強い奴じゃないんだからよ!」
「奏も気を抜かない、ほら、肩を引っかかれてる」
出口から外に出た西木田は、多分、バスケットコート4面くらいある、今度はとてつもない天井の高い部屋で、見た事もない化け物と戦ってる自分を除いたギルドの3人+2人が戦っている真っ最中の部屋であった。
「これでわかったね、多分、これ、あのメガネくんだね」
と秋がいう。
見ると、夫々の面に同じ扉が7つ空いている。
「馬鹿言ってんじゃあねーよ、重文がこんなばけものわけないだろ、こりゃあ、多分、中階層にいるモンスターだ、重文はこいつにやられたんだ、くそう!重! 食われち待ったかなあいつ」
と水島がいうと、
「いや、ここは中階層への『前室』だよ、本来、モンスターは現れない」
「なあ、真壁先輩、やっぱこいつ倒していいか?」
「だめ、乗っ取られた彼のスキルに重大な欠損が出る可能性がある、私たちは、そのことを工藤真希に頼まれている、頑張って防戦して」
「はい、東雲先輩」
春夏には素直な奏だった。まあ、言うことを聞いてくれればいいのだから、この辺は秋も苦笑いである。
ちなみに秋と春夏、そして奏は、浅階層のジョージを瞬殺して、すぐにここに来た、というか部屋から解放されて外に出て来た。
そして雪華が遅れて出て来た頃、突然、新しい扉の出現と同時にこの化物が現れたのだ。
全身が黒光りする鱗のようなもので覆われた体は、時折、その鱗が落ちて床に転がるが、その化物が接触すると再び体の一部に戻る。
体の大きさはさっきまで戦っていたジョージをだいぶ大きい、ひょろりと、4mくらいはあるだろうか、手足が異様に長い。腕の関節が人よりも一つ多いみたいな感じである。
これだけでも結構な脅威ではあるものの、その長い手から振り回される攻撃は、時折、その化物の手足よりもいきなり伸びで引っ掛けてくる、切れ味はそれほどでもないものの、奏も数回、それによって傷を負わされている。
この化物を、秋は鴨月だと言った。
確かに、見た目、モンスターに見えるものの、どこか形がモンスターの姿とは異なる、水島曰く、この化物は、どこか人造物な匂いがした。
人だという何かが残っている、そんな形。そして匂いがすると、先ほどから水島は言う。
もちろん、ゾンビとは違う。このダンジョンのモンスターは概ね人が知るモンスターが多い。多少の変化はあるものの、どこかの物語、またはおとぎ話、ゲームなどで何度も繰り返し出てくる物が多い。
しかし、今回の敵となっているのは全くの初見である。
こんな奴、初めて見た。
なんだろう、正直、形そのものは確かに異形ではあるが、怖いという感じはしない。
曰く、鬼とかそれに連なる人型のものとは根本的に違う、なんというか人を威嚇するような姿ではないのだ。ただ、それは人とは思えぬ咆哮を上げて、見境なく動いているものに襲いかかって来る現状において、怖いといえば怖い。
「あれが重だって? どういうことだよ?」
先ほどから、奏も『彩眼』を発動させているが、その中身というか、それが全く見えな。全てが同じ色、どこにも異なる色が見えない。多分、こいつは一体のモンスターだという答えが彼女には出てしまっている。
「真壁先輩、あれ、本当に、あのメガネなのかよ?」
と再三質問される。
「一応、この自体が発生するまで口止めされていたけど、もうこうなってしまった以上僕が知っていることを話すから、みんな、避けながら聞いね、あれは、『覆偽体』って言って、『請負頭』が術者を覆ってしまった姿らしいんだ」
話はつい一日前に遡る。