閑話休題2-14【西木田 翔悟の場合】
【西木田 翔悟の場合】
西木田は抵抗なく、そのゆるりとしたジョージの剣に殴られていた。
緩慢な動きの生きた屍が小太りの少年を一方的に殴り続ける。錆びて刃の無い剣では、切ることができずに、ほぼ鈍器の様にジョージの攻撃はこんな形になってしまう。
その姿は、まさに、大きな大人が少年を虐待する姿にも見えて、それなりに凄惨な光景にも見える。
そして、幸か不幸か、この西木田少年のスキルが発現したのも、こんな光景からであった。
今はダンジョンのおかげれ距離ができて、彼の生活は関係が改善されているが、かつてはそんな家庭環境の中で、この少年は育ってきた。母親の再婚相手とソリが合わなかった。たったそれだけのことだ。
かつては、生きている事に対して、良否の判断に毎日苦しんでいたことを思い出すと、バカで人見知りで、怖いもの知らずで恥知らずの友達は、とても救いになってくれた。
今が格段に楽しい。
スキル開眼時に半殺しにしてしまった義理の父の事も、病院に入院してしまった母親の事もこの仲間といるならあまり気にならなくなっていた。
叩かれるのは平気だ。
痛いのも平気。
ジョージの攻撃を受け続けるも、西木田になんの表情の変化も現れなかった。
そして、その攻撃回数がそろそろ100も超えそうな時に、ジョージは唐突に倒れた。
「ウワー、殺ラレター」
お約束の言葉をジョージが吐いた。
敗北を認めたのだ。
西木田は一度もジョージに向かって攻撃はしていない。
ただ、彼は口元を押さえて、げっぷをする。
「まあ、お前、不味くはなかったよ」
そう告げた。
彼は食べることができる。
普通の食事以外でも、自分に干渉してくる何もかもを食べる事ができる。水島からは『悪食』とからかわれるが、その通りだと思う。同時に、触れてくる相手の力、つまりは存在するためのあらゆるエネルギーを食べて吸収してしまう。
それでいうなら、栄養過多になってしまうので、なるべく相手に返そうというのが、今、彼がジョージに対して行ってきた事である。
ただ、問題なのは、その時に吸収した力を100%で相手に返せないところが若干あって、せいぜい90%、頑張って95%しか返す事が出来ずに、残りが彼の体に残留してしまう。おかげで最近、体重の増加が止まらない西木田少年であった。
一方的に殴っていただけのジョージが倒れる。
この戦いを簡単に説明するならジョージ自身が行っていた、あの緩慢な攻撃が、僅かなダメージが戻され続て自身の攻撃総量の蓄積により倒れたのだ。
ちなみに、かつて、彼の義理の父親は、一撃で自分の頭蓋を割ってしまって昏倒した。
多分、それは子供にとっては死に至る一撃だったと思う。
その時の味は今ではすっかり忘れてしまっている西木田であるが、決して不味い味じゃあなかった様な気がする。
西木田が今でも肉系統の食べ物が口に出来ないから、その中にあるのかもしれないと思っていたけど、そのうちどっかで忘れるよね、とも思っていた。
「あーあ、時間かかっちゃった、みんな無事かな」
小さいこの室内に、今まではなかった扉が現れる。
つまりは試練はクリヤーしたという事だ。