閑話休題2-13【雪華の場合】
正直、目の前に突然現れた不死系モンスターの登場にびっくりしてしまう雪華だった。
しかも、周りには誰もいない。
1人で対応しないといけない。
先ほど、水島も受けていてたご丁寧な説明を聞いて、雪華は思う。
そうか、人を倒せないとここから先には進めないんだ。
人間をやっつける。
人を殺す。
この次の場所、つまり中階層以降は、殺人とかできないと、進んではいけない。
スウっと深呼吸する。
今の自分があるのはこのダンジョンのおかげだ。
そして、今、壊れた家庭環境を作ってくれたのもこのダンジョンだ。
でも、奏に会えた。
マモンにも、
そして、秋にも再び出会えた。
「見テ見テ、僕ノ弱点ハ コノ指ノ差ス所ダヨ、人間ノ弱点、生存出来ナクナル攻撃、焼イタリ、凍エタリ、痺レタリ、デモ倒セルヨ、ヨク聞キ取レナカッタ子ハイナイカイ、モウ1回言ウヨ」
ジョージの説明に、痛み入る雪華。
「ご丁寧に、ご説明ありがとうございます」
そう言って、雪華は、腰に下げていた武器を持ち、構える。
雪華の武器、雪華の父、河岸直人が、自分のスケジュールやら、持っていた工程をすっぽかし、工場のラインを2本止めてて愛娘の為にだけに作り上げた『兵器』
後にこの兵器が生まれる製造過程において発生た混乱は、退職者を数名出してしまうほどに社長のご乱心として扱われ、以後秘匿されているらしい。
それは、メイスの形をしていて、一見すると、どこかの少女趣味、または、魔法少女が持つステッキにも見えるものの着色は無く、メタルしい姿をしている。
名を『ポラリス』
今も旅人の頭上に輝き、変わらぬ北を指してる星。
なにやらロマンティックで、涼やかなそんな気がしてくる響きではあるが、実際、その武器、『ポラリス』の持つ能力はそれをあざ笑うかの様なえげつない性能を秘めている。
この辺は、もともとメイスの仲間のモーニングスター(明星)の爽やかな名前とは裏腹に、中世では兜もろとも、頭蓋骨を粉砕していた歴史を考えれば、ありがちな事実なのかもしれない。
しかし、今回はまだ、このポラリスを、普通に打撃武器として使うつもりもない雪華だった。あくまで、盾代り、そして因子をばら撒く道具としての存在に留めている。
相手は人型、ゾンビとか言う死霊の類だとしても、物理の干渉が可能で直立して歩いて、そして切りかかってくる以上、その体躯には、人としての理屈が通用するはずなのである。
相手が手強いとか、意外に強敵なんて言われて、それなりの覚悟をしてきた雪華ではあるが、ジョージを見て、一つ安心した。思わず、顔が綻んで、言葉を漏らしてしまう雪華だった。
「よかった、『人間』なら、上手に壊せます」
彼女の持つスキルは『メディック』。それは、決して人を癒す能力なのではない。内部に潜り込み、肉体をどうとでもしてしまえる能力。雪華はそれをあくまで治療に使っているに過ぎない、発動には若干の条件がいるものの、今回はそれほど難易度は高くない。
そして、雪華の戦いは、開始と同時に終了する。
「なるほど、アンデットってこうなっていたんですね、勉強になりました」
雪華の声を聞くこともなく、四肢をバラされたジョージは、蝋の置物の様に、床に転がっていた。