閑話休題2-12【水島祐樹の場合②】
水島は、ガンガンと攻め続けた。
もちろん、剣撃としては、未だ拙い水島の攻撃は、あたりこそするが、どれも致命傷には至らない。
攻撃するにせよ、守にするにせよ、自分お中途ハンパなスキル能力を呪ってしまわずにはいられない水島だった。
この何十発と見舞っているたった一撃に、自分のスキルが乗れば、多分、ジョージは倒れる。
しかし、それがなかなか上手くいかない。
「諦メヤチャダメダヨ、自分ヲ信ジテ」
と敵に応援される始末である。
水島の持つスキルの能力は『エンチャント』、俗に言う、刃や時に自分自身に、魔法の効果を載せるもの。このダンジョンにおて、概ねポピラーな能力である。
水島の場合は、炎、氷、雷、などを載せることができる。しかも、その破壊力はそれなりのものではるのだが、如何せん、発生も効果もランダムと言うのが、彼の持つエンチャントをトホホな能力に変えてしまっている。
水島にしても、先ほどから、炎の刃を出そうとしているが、まったくその気配がない。
ちなみに、魔法スキルにおける詠唱は、術者の集中力がその効果に影響する(と言われている)ため、人によっては必須となっているように、水島もこれに便乗して、技の名前を付け、それを叫ぶことで成功率を上げようと試みた。
「ヒートブレードゥゥゥ」
「アイスエッジィィィィ!」
「雷鳴斬ンンンン!」
どうして最後だけ日本語なのかは突っ込まないでいてあげてほしい。中学校2年生にはやる病に未だ脱しれない水島にとって、『カッコイイ』以外の理由などは不要なのである。
恥ずかしげももなく叫んで切りつけるも、どれもエンチャントは発生せずに水島のなまくら斬撃がボコボコとジョージを殴るだけであっった。
ちなみに、水島は、今誰もいないから必殺技名を恥ずげもなく叫んでいるのではない。この短髪少年は、たとえ周りに誰ばいようと必殺技を叫ぶくらいの度胸はある。
それに、こう言った、自分で技に名前を付けて、叫ぶダンジョンウォーカーの数は一定数存在している。決して少なくはない。ダンジョンをどう楽しむか、はその人次第なのである。
そしてようやく、一撃が決まった。
「ヒートブレイク!」
若干、必殺技名が変わっていて、しかもエンチャントされた能力は、氷で、『アイスエッジ』だと思われる。
この一撃によって、体の一部を凍りつかされ、ジョージは倒れる。
「ウワー、殺ラレター」
とジョージは抑揚の無いマシンボイスの様な声で言って倒れる。それきり電池が切れたおもちゃみたいに動かなくなった。
ここで、ようやく水島は実感できる様になる。
「よし、決まった、アイスエッジ!」
なにはともかく、本人が納得していればいいのでは無いかと、要は結果論である。
難敵と言うより、気持ちの悪い敵だったなあ、と言うのが水島の持った印象で、
彼には、人に対する攻撃や、命を奪う行為に対して、あまり抵抗のあるタイプではなかった様だ。
もっとも、少年の未熟な思考は、自身の持つ残酷さを意識できないのかもしれない。
この行動がどう言う意味を持つのか、それが不明な水島少年は、いつか、この残酷なゲームの意図を感じるかは、わからない。いつまでも知らない方が幸せなのかもしれない。
ひとまず、ようやく中階層に行ける実感と、ジョージを倒せた達成感で、至福なひとときな水島少年だった。