閑話休題2-11【水島祐樹の場合①】
ゆるりとジョージはその剣を振り下ろした。
全くの警戒するに当たらない攻撃。
一体、これはなんの真似なのだろうと、水島は思った。
それというのも、それなりの意味とか意図を感じたからだ。弱い攻撃に遅い攻撃。
でも、こいつは確かに俺を攻撃して、倒そうとしている。その意思が感じられた。
水島は剣を抜く。
ギルドから借り受けた、汎用なロングソード、数打ちの安物ではあるものの、そこはしっかりと河岸製作所の製品で、剣としての要件は、高いレベルで満たしている。
喜耒薫子が持つカシナートほどではないにしても、今の水島にとっては過ぎた代物と言えた。
無論、その自覚はある。
そして、何より、この浅階層のジョージは全く怖くはなかった。
以前巻き込まれた事件、あの鏡海の間で起こった事件の時、笑いながら、槍を振り回す『愚王』の方がよほど怖かった。
言い方を変えるなら、あの戦いでほとんど戦力外と言われて扱われて3人組ではあるものの、等しく愚王、宝によって、怪我をしない程度に攻撃され、圧倒されで、転がされて、逃げ惑わされて、情けないだけの戦いとも言えない一方的な暴力だったのだが、経験は跳ね上がり、度胸の上ではそれなりの成長を遂げた水島だったりする。
だから、浅階層のジョージを目の前にしていても、怖さはない。
確かに、姿形は怖いし、気持ちも悪い。
でも、あの時の愚王なんかよりは全くマシだと、水島は思う。
あれと、もう1回戦えと、言われたら嫌だが、この浅階層のジョージに限っては全くその気配はない。
大丈夫、あれに比べたら、本当にマシな部類だ。
あの愚王を撃ち合っていた真壁秋にも全く叶わないだろう。
まして、あの時みた、デカ女(奏の事らしい)にも、無理だ。
なんとか勝てそうかな、と思っていたお嬢ちゃん(雪華の事らしい)も何か、今日は雰囲気とか違っていて、腰にしていた装備も、実家に寄るところの専用武器っぽいし、何か勝てる気が全くしなくなっていた、水島である。
多分、ギルドの中では仲良し3人組と認定されている他の男子とは、多分、同じくらいじゃあないだろうか?
お互いが持つスキルの相性なんかもあるし、一概には決められないし、あいつらとは本気でやりあうことなんて一生なさそうだし、永遠にこのどんぐりの背比べになるよなあ、という予感はある。
でも、浅階層のジョージには勝てる。
奴にだけは勝てる。
俄然、やる気出がてくる水島は、ネガティブに自分を分析して、ネガティブにやる気を出している。出ると言っても、出力! て感じではなく、滲み出てくる感じ。じわーっと何かが吹き出てくる様な元気の出方をする。
キモいとか、キショイとか言われるかもしれないが、こればっかりは性分なので仕方がないと言える。
つまり、誰よりも強く、ではなく、誰よりかは強くが、彼を支えているのである。
割と珍しいタイプではあるが、結果的に見ればやることは変わらないので、彼の行動などには概ね問題はない。
ギルドの貸し出し品であるロングソードで何度か切りつける。
「コレジャ痛イケド、死ニニハ_至ラナイナア」
とダメ出しされる。
服をきている人間って、なかなか切れない。と思ったのが第一印象である。
よくゲームで鎧あつかいの衣服ってあるけど、本当に防御力とかあったんだな、とほとほと感心する水島だ。ロングソードクラスなら刃が通らない。布の上を滑ってゆくだけだ。
「当て方とかあるんだな、きっと」
などとボヤいてしまう。
ともかく攻めよう。
そう思うと、あの時、愚王との戦いで学んだ、というか自然に身についてしまった間合いを保っていることに気がついて、自分の成長と、あの愚王の笑い声を思い出して、ブルっと震える水島だった。