閑話休題2-9【さあ、強くもない僕を上手に殺してみよう】
浅階層のジョージ……。
中階層以降に降りるダンジョンウォーカーなら誰もが戦った事がある相手。
ある意味、この北海道ダンジョンにおいて一番有名なモンスターだとも言える。
言ってみれば、彼を倒して初めて、ダンジョンウォーカーと言えるようになるとも言われている、また、学校や仕事などに行かずに、十代の期間をダンジョンだけを生業とする『冒険者』を名乗り、成り立つのも、中階層以降に入ってからになるので、ある意味彼を倒す事も必然になるので、一つの壁ともなるのかもしれない。
つまり、中階層に行く冒険者の数だけのジョージは倒せされている、延べ人数に換算するなら、多分、一つの大きな町くらいの人口のジョージは倒されている事になる。
それらを統合的に捉えてみると、このダンジョンにおいて、一番とまでは行かないものの、それなりの意味を持つ馴染みの深いモンスターなのかもしれない。
そんなジョージを系統的に種別するなら、『ゾンビ』という種類になる。
身の丈2メートル弱ある身長は、若干猫背で、それでも中高生の子供たちにとっては覆いかぶさるように大きい体躯を持て威圧してくる。
そしてその容姿も朽ちて行く死体そのもので、目だけが生々しく生気を保っている。
そして、服装も、ボロボロながらも、なんとかそれが中高生の制服らしいとわかる。
もちろん、その制服に該当する学校はこの近隣には存在しない。言われてみれば、というくらいの感覚でしか認識はできていない。一回きりの邂逅なのでその辺の印象は無理もないと言えるだろう。
そして赤い長剣。実際には錆びて、刃も無く、棒な印象な長剣はその不衛生さから、麻痺とか毒の効果があるのではと言われている。
その長剣を緩慢な速度で降ってくる。あまりに遅すぎてカウンターなども成り立たない程度の低い攻撃だ。それを倒すまで、何度も何度も繰り返してくるのだ。
ある意味、怖いといえば怖い。
加えて、あの声だ、趣味の悪い冗談だと思う者がいる反面、むしろギャップが怖いと感じられている方が多いようだ。
モンスター的には全く大した事もない、恐らく、徒党を組んだ紙ゴーレムの方がよほど手強い、しかし浅階層のジョージは、ダンジョンに入って初めてとなる、肉と骨、血を声、そして、確実にこちらを捉える目を持った、意識を持って対峙してくる初めてのモンスターなのである。
今までは、浅階層のモンスターなら、『遊戯』の感覚で対峙できる。紙、金、虫、魚、スライム(影体)など、敵対する意思は示すも、意識もなく、ただ、漠然と障害物としてあった者だ。それを退けるのは容易い。
物の様に、避けてしまえばいいのだから、倒すというのも、一つの段取りであり、そこに明確な対戦の意思はないのだ。所謂、動く的当ての様な感覚だろう。
この試練に対峙して、なんの問題もなくクリヤーしてしまう人間が多い反面、どうしても超えられない人間もいる。
ここではその境にあるダンジョンウォーカーを篩にかけるという場所なのである。
ここでは、『人に類似する者』もしくは『生命のあると思われる者』との対峙に他ならない。
しかも相手は親切に語りかけてくる始末の悪さだ。
自分を上手に倒してごらんよ。
切って。
突いて。
叩いて。
潰して。
焼いて。
凍らせて。
感電させて。
ほら、上手にやってごらん。
人殺しをしよう。
上手に殺してみようよ。
苦手な人間は、みんな浅い階でお人形や虫と遊んでいればいいんだよ。
門番はそう囁く。
優しく、グロテスクで、醜く、穏やかで慎ましい。
それが浅階層のジョージなのである。