閑話休題2-7【押してもダメなら引き戸でした】
少なくとも、ギルドの仲間であり、自分側だと、特に雪華や奏の事が気になるわけもないのに、こうも自分たちを無視して、部外者いいかれるのはいかがなものだろうか?
ちょっとした疎外感は瞬時にいら立ちに変る。
少なくとも、彼からみれば、同じクラスの女子が他のクラスの男子に取られてしまったくらいの面白くない印象があるようだ。
「そう、秋くん、少し緊張が足りない」
と苦言を呈する春夏も面白くないらしい。その辺は察してやれ、と多分角田あたりがいたら言っていたかもしれないが、彼も彼で秋に負けず劣らずの朴念仁であるので、やはり何も言わないかもしれない。
確かに、道程は終点を迎えようとしている。
浅階層6階。ここは本来の深さだけで言うなら、すでに中階層にある場所だ。
一部、男子達を除いては楽しい語らいで、ここまで来た彼らであるが、敵とのエンカウントもなく、運が良かったと言うより、この辺はダンジョン特有のルールによるものである。
基本、北海道ダンジョンにおいて、『道』に敵は出ずに、『部屋』に敵は潜伏する。だから、浅階層の場合なら、通路側さえ歩いていれば割と安心して油断して歩いても大丈夫なのである。
極々稀に、通路とかにも敵が出現する場合があるが、それはトラップなどと同様なもので、完全に固定された『そこに出現する義務を持つモンスター』で、概ね中階層も終盤あたりでは普通に出て来る。何より、『道』を演じる『部屋』もあるので、その辺はゆめゆめ油断してはならないと言うことだ。
ひとまず、ギルド5人+2名は、浅階層のジョージのいる部屋、『試練の間』までたどり着いた。
最後の階段を降りて、なだらかな坂道を下った突き当たり。目の前には、今までとは全く違う雰囲気を持つ、言い換えるなら、いかにも何か出そうな意味ありげに立派な大扉が現れる。
この扉を開くと、そのダンジョンウォーカーが今後、中階層に行くだけの実力があるかどうかを試される試練の場が提供される事になる。
「じゃあ、行くからな、みんなちゃんとやれよ」
と扉に手をかけたのは、短髪少年の水島である。
力一杯、押してみるが、ビクともしない。
「あれ?」
「何やってるんだよ」
と西木田が扉に手をかけ、一緒に押す、が同様にピクリとも動かない。
「お前らじゃあ、試練が不足と判断したんじゃね?」
と、失礼な事を言うのは奏だ。
「そんなことねーよ、紙ゴーレムくらいは倒せるよ、ふざけんな!」
といきり立つ水島に、
「これ、多分、引き開ける扉だよ、ほら、こっちにストッパーついてるから」
と冷静に言うのはメガネの少年、鴨月重文である。
言われて、素直に引いてみると、本当に軽く扉が開いた。
「わわ、本当に開いた」
「引き戸って書いておけよな」
などと驚く西木田に愚痴る水島、そして思わず吹き出す、奏だった。
「笑わないの」
と冷静に嗜める雪華である。
「本当だね、気がつかなかったよ」
と言うのは、秋で、どちらかというと、水島達に同情的な言葉をかける。
真面目にもし秋本人が先に扉に手をかけていれば、間違いなく彼らと同じ目に遭っていたはずなのであるし、秋はそう言う『人に笑われる目に会いやすい体質』をしているのは本人もよく自覚している。
今回は、水島、西木田、両名の活躍によって、初見の雪華達に対して恥ずかしい思いをしなくて済んだと、感謝の気持ちに絶えない。
簡単に言うなら、いつも率先して地雷原を歩く秋は、今日はその役を買ってくれる人がいると言うのは心強いものだと思っていた。
「それに、よく気がついたね、冷静だね」
と重文の事も褒める秋だった。
多方面に素直な秋のこういった人格は好感を持たれやすく、確かに、あまり接触して来なかった、自分のクラスの女子を他のクラスの男子に取られてしまったかの様にささくれ立った、水野、西木田、そしてそうでもない鴨月たちからは、『こいつ、いい奴なのかも?』と言う若干の好感度の上昇が見られたようだ。
扉の中の室内は、今まで通っていた通路より暗く、闇が深い。
でも、真っ暗と言うほどもなく、中途半端に広い室内の石の壁は見えていて、その室内の中心いは、開け放たれた入り口から入る光を反射する何かば見えた。
「じゃ、今度こそ、行くからな、いいな」
と秋を含む、全員対しての若干の発言の変化が見られる水島の2度目の忠告によって、皆、それ相応の覚悟を決める。