閑話休題2-6【3戦全敗瞬殺です!!】
春夏はしっかりした言葉で、相馬奏を見つめて話す。
「西洋剣技の方にいた女の子だよね」
「そうです、そのうち、3回手合わせお願いしました」
それは初耳の雪華だった。
「え、初めて聞いたよ、そうなんだ」
「まあね、3戦、全敗、3瞬殺だったしね、しかも3回目は目を開いている状態で瞬殺されたし」
と、負けているのに、なぜか誇らしげに言う奏だった。
当時、奏が春夏と対戦した内容は、最初の2回は様子を見ようを『彩眼』を開こうとした所を瞬殺、そして最後は、最初から全開で『世眼』を使用して挑むも、結果は同じだった。
ちなみに、奏が最後に春夏への挑戦を行なったのは、つい昨日のことであった。
つまり、あの愚王の指導の後に、そこそこ力がついたよな、と思っていたけど、同じ結果で、実はそれなりにショックは受けている奏でもある。
もちろん、この辺の結果には、春夏が持つ、『サムライ』と言う名のスキルが大きく関わっている。
剣系スキルの総体であり、最高位の一つであるこのクラスは、特に対人戦闘に特化しているとも言える。文字通り、一般の人間では太刀打ちできない。もちろん、このサムライと言うスキルに対応するスキルもある、『騎士』とか、『狂戦士』などと呼ばれるスキルも確かに存在しているが、サムライ同様その数は希少であり、剣系スキル最高位のスキル持ちは春夏を含めても、現在確認されているのは10人に満たないのが現状だった。
ちなみに、宝と秋の場合は、あくまでもノービスであり、その攻撃する能力は一般には『王』と言うなのスキルの一部ではないかと考えられている、が実際は彼ら2人は身を置いていた環境が大きい。
そして、こうして雪華が近くで見る春夏もまた、そのような強者の中の一人だ。
凛として穏やかに済ましたその姿で、強くて、しかも美人。
これはもう、反則なんじゃあないかな、と雪華は春夏の顔をみてそんな風に思う。
しかも、常に秋と行動を共にしていると言う。
正直、羨ましい以外の何者でもなかった。
そして、そんな感情を知ってか知らずか、奏が尋ねる。
「あの、真壁先輩と東雲先輩って付き合っているんですか?」
どストレートな質問。びっくりする秋は、
「いや、そんな訳ないよ、ねえ、春夏さん」
と同意を求める。
ちなみに、今の秋にとって、春夏は単に幼馴染で、友人だ。
しかも、幼馴染の方は、本人にあまり記憶がないので自覚もない。
思い起こせば、そんな人もいたかも、程度の印象の浅い記憶であって、母親の親友の娘なのだから、多分幼馴染なんだろうくらいの認識である。
そして、春夏の容姿、立場、能力からしても依然、秋からすると、『高嶺の花』な訳で、時折、横を向くと普通にいるこの美少女の存在が信じられないものと映るのもしばしある。 何と言っても、学校の女子から相手にされない男子、真壁秋なので、その辺は察して欲しいところでもある。
それでも、ダンジョンに入って以降、春夏を始めとして、学級委員長の静流や今日の2人にも話しかけられて、ちょっとした変化に戸惑う秋でもあった。
だから、秋からすると、春夏と付き合っているか?の問いに対する答えは、『恐れ多い』であり、この中学校3年になる男子にとって男女の付き合いなど、わかるけど現実を伴わない行為であり、未だ行ったことがない遠い異国の地のようなもので、それは確かに存在するけど、まあ、今の僕にとっては関係ないよね、くらいの印象である。
「よかったじゃん、雪華、付き合ってないってさ」
デリカシーのかけらもない直球な質問は親友のためのものだったようだ。
「何を言うのよ!」
と怒る雪華であるが、そうか、そうなんだ。と言う心の奥底から吹き上がって来る喜びを隠せないのも事実である。
「お前ら、真面目にやれよ! もうすぐ到着だろ!」
とさすがに口を挟むのは、短髪少年の水島であった。
少々、釣り目勝ちなこの少年は、髪も短いが気も短いところもある。
そんな水島少年にとって、今の状況は面白くなかったのだ。