閑話休題2-5【成功確率90%】
誰もが簡単に通過できる、いわゆる通過儀礼と祝える『浅階層のジョージへの挑戦』は概ね、通過できるものは9割、つまり、10人に1人は失敗するのだ。
「真壁先輩、今日はよろしくお願いします」
と、先頭のギルド5人の陣形を崩して、後ろからついてくる部外者に駆け寄って、声をかけるのは、少し頬を赤らめた雪華である。
「東雲先輩、今日はよろしくお願いします」
と、こちらの方は、ほおを染めると言うより、興味深くじっくりと見つめてしまう。
本当に綺麗な人だと、雪華は思った。これで春夏に会うのは2度目なのだが、今日ほど近くで見た日はなかったので、失礼だと思ったが、まじまじと見てしまう。
近くで見た印象は、可愛いと言うよりもその美しさ、そして、何より自分とたった1年しか歳が離れていないのが信じられないとも思った。
なんて言うのか、本当に漂う雰囲気というか威厳というのか、帯びている空気が雪華には圧倒的に感じてしまった。
真壁秋の近くに必ずいる東雲春夏。
学校での噂通り、異質な感じがした。
「真壁秋です、初めましてでいいんだよね」
と秋からの挨拶。
本当にこの少年は人の顔を覚えない。
もっとも、前回のあの一瞬の邂逅で、しかも腕を吹き飛ばされる修羅場であったし、雪華の顔を覚えているというのも難しい話ではあるものの、あの出会いは、それなりの印象もあるので、覚えていない方もどうかしているとも取れる。
春夏は、雪華を見て、軽く会釈するにとどまる。こちらも、あの鏡海の間での出会いをそれほど印象的には捉えていないようだ。秋に足しして右に習って初対面の挨拶みたいな感じである。
「いや、初対面じゃないっすよ、真壁先輩、雪華覚えてないんですか?」
と口を挾む奏だったりする。
立ち返る秋。
わからない秋。
「真壁先輩の腕を抱えて行ったんですよ、雪華、自分の千切れた腕をもたせた女の子を忘れるなんて、真壁先輩も大概ですよね、最終的に腕をくっ付けたのも雪華ですよ、先輩」
そこで、初めて『ああ!』となる秋。
「あ、そうか、ごめん、あの時はありがとう、ごめんね、変な物を持たしゃって」
あの時は、助けることに無我夢中の上に、腕が千切れるというショッキングで大きな怪我をしていて、さらに最後の方は意識さえ失っていたのだから、秋の立場から言えば、印象に残るとはいえ、それが誰だったかまで覚えておいてというのも酷な話だ。
それでも、特に女の子関係にはヘタレる秋なので、心の底からごめんなさいな気持ちでいっぱいになる。
「いえ、そんな、奏! もう、先輩に失礼よ」
と雪華は友人をしかりつける。
そして、
「私、河岸雪華です、今年から真壁先輩と同じ学校の一年です、今日はよろしくお願いします」
と、改めて自己紹介をする。
「相馬奏っす。真壁先輩、東雲先輩、よろしくお願いします」
と言ったところで、今度は春夏が奏に答える。
「2度目じゃないよね?、札来館で、4回あってるよね」
と言ったとことで、
「覚えてくれてるんですね、東雲先輩の方は、そうです奏です」
そう、札幌の札来館に美少女剣士ありと言われた春夏に挑戦していない訳がない奏だったりする。