閑話休題2-3【浅階層のジョージ】
彼女もこのメールを受け取ってから、慌てて雪華の部屋に入ってきたものの、当の雪華のパニックぶりに還って冷静になってしまう奏である。
二日後かあ、ちゃんと眠れるかなあ、と頭の中がお花畑な雪華に、
「浅階層のジョージって、結構厄介だぞ」
と、やや温度の低い水を浴びせるのは、先ほどから雪華の部屋でゲームに興じるマモンであった。
現在、某ゲーム機の某ゲームに夢中である。ちなみに中盤にさしかかろうとしている今『ハチミツ』が足りないそうだ。
「強いって事かい、マモちゃん?」
奏の質問に、
「いや、強いって程では、あ毒った! わわ、サマソ二発なんてずるい! 強いよ、多分、でも紙とか倒せるなら大丈夫だけどさ、あー、死んだ。これ以上は話せないけど、あれは一種の篩みたいなもんだから、えい、リセット」
ゲームの実況をしつつ、一応は苦言を呈してくれるマモンだ。
「あ、そうか、マモちゃんはそっち側の人だもんね」
「まあ、神だけどな、全部知ってるんだけどな、言えないんだけどな、あ、飯食い忘れた」
あの、例の長い1日から、雪華の家にすっかり居候じみているマモンであった。
それでも、夕刻になると、愚王事、宝の為にいそいそと帰って行く。
あの男、夕食の準備や料理はできる癖に、アモンがいないとそれに手をつけたりもしなくて、ただ、木石の様にたたずむらしい。
何のかんの言っても宝が心配なマモンなのである。
ちなみに、マモンの事は父には隠し事もせず、本当の事を話した雪華だ。信じる信じないは父に任せようと思ったからだ。
もちろん、父は雪華に対して、絶大な信頼を寄せているので、疑う事なく、マモンを受け入れた。基本的に雪華のする事に対して反対などしない父であった。
おかげで、宝、つまり『愚王』と行動を共にしない時は、概ね雪華と共にいる。
マモン曰く、『あたしだってさ、あいつらみたいない外の世界で色々やりたかったんだよ、馬鹿(宝の事)は寮住まいだしさ、監視厳しいし、ようやく同性で気の合う依り代が見つかった、まあ、そんなに長い時間じゃないからよろしく頼むよ』と言う事らしい。
もちろん、雪華にとって、マモンは恩人、恩神、救いの神であり、何より可愛いし、実害も無い、あれで、色々と気遣いをしてくれるし、受け入れられない道理がない。
奏とも仲良くやっているし、全く問題は無い、何より、ダンジョンの事に関する相談は、概ね全て解決してしまう。その辺は、女児に見えても、三柱神の1神と言ったところだ。
冷静に考えてみると、神様を自分の家に置いていると言うのもなんだろうなあ、と、時折考えてしまう雪華である。
「まあ、お前たちなら大丈夫だろうさ、不安材料ってか、ちょっとヤバいのはあるけど、あいつら保険に呼んでいるなら大丈夫だろ」
と再び、ゲームの方にのめり込んでゆくマモンであった。
それはそれとして、ちょっと美容室に行ってこようかなあ、などと思う雪華だったりする。
やはり、ここはちゃんとしないと、少しでも可愛くないところは見られてくない、乙女な雪華である。
自分の毛先を寄り目で見つめながら、
「うーん、この前行ったばっかだしなあ」
なんて心中を吐露するも、
「意外な対決が観れるかもな」
と奏も興味津々である。
そして当日。
ギルドの長、工藤真希によって集められた、ギルド構成員、5名、の内、新人2名を含み、さらに、現在、このダンジョンに置いて、もっとも問題児とされるグループから2名を加えた、合計7名が、ギルド本部の前に集められた。