閑話休題2-2【え? 真壁先輩と一緒??……運命かも!】
しかも、一緒にいた女子、つまり雪華と奏は、ダンジョンに入ってわずか数日のうちに中階層への道、つまり『浅階層のジョージ』への挑戦券を手に入れている。1人はわかる。相馬奏の方はスカウト組みだから、確かに実力は相当なものだと、納得がゆく、でも
もう1人、河岸雪華の方は絶対におかしい。
「絶対コネだよな」
と短髪少年の水島 祐樹が言う。
「そりゃ、彼女はギルドの大きなスポンサーだもんな、そういうことだってあるんだよな」
同調するのは小太りな西木田 翔悟だ。
「でも、彼女、結構活躍していたよ、1人で怪我した人みんな見ていたし、麻生さんも、適切な処置だって言ってたよ」
と雪華をフォローするのは、メガネの男子、鴨月 重文である。
「そんなの、誰でもできることだ、お前、本当にわかってないな」
と水島は一言で切り捨てる。
「え、でも」
否定されても、それでも友達のために何かを言おうとする鴨月ではあるが、彼の従来の性格から、強く言われて押し切られるのはわかっているので、次の言が継げない。
「いいから、重は黙ってついて来ればいいんだよ、それより、なんでこいつらも一緒なんだよ」
多分、こいつらと言うのは、真壁秋と東雲春夏のことであろう、
「こいつら来たらまた危ないじゃん」
と短髪少年の祐樹が言うと、
「本当だ、別に、こいつら来なくてもいいじゃん、俺達が手伝ってやる必要なんてないじゃん」
とふっくら男子の翔悟の意見だ。
「いや、手伝ってもらうと言うか、多分、僕達のために来るんだよ、きっと、それがこの前の事件のペナルティーかな?」
と眼鏡をかけた理系的男子、重文が言うも、
「そんな訳ねーよ、あの時はあのデカイモンスターとかいたからだよ、本当にお前は何もわかってないな」
この時点でわかっていないのは圧倒的に、短髪君である祐樹なのであるが、こうして、ずっと、何かにつけて、2人に否定されてきた、最近、賢さとスルースキルに磨きがかかってきた重文にとっては少し楽しみな邂逅となっている。
少なくとも、あの日、何が起こっていたのか、全く理解していない、2人と、なんとなく理解している1人の会話であった。
時を同じくして、メールを開示したままのスマホを片手に固まっているのは、河岸雪華である。
自室のベッドの上に座っって、スマホを片手に、そうさする指もそのままに、先ほどは『きゃあ』と黄色い悲鳴を上げていた。
「どうしよう、奏、真壁先輩、一緒にダンジョンに入るって、私たちと一緒だよ、一緒のパーティーって、どうしよう奏、私どうしたらいい?」
笑顔でパニックな雪華だ。もはや、真壁秋に対する仄かな好意など隠す気はさらさらない。
奏は思う。
これが、ギルドの諸先輩(女子)が言うところの『ダンジョン効果』だと、浮かれ飛ぶ雪華を見て、今、そこにある現実を達観して見つめていた。
いわゆる、北海道ダンジョンに伝わるダンジョンウォーカー関連の『噂』と言おうか、それとも現象的なもので、簡単に説明すると、ダンジョンの中では男女は恋に落ちやすいという現象である。
つまりは、一般に言われる『吊り橋効果』の上位互換のような物で、ダンジョンの場合は、守り守られが入ってくる分、生命に響くので、その対象者への気持ちはもっと、入りやすいと言われている。
また、近年、元ダンジョンウォーカー同士の若年結婚も増えてきているという、少子高齢化な現代を救う一役も買っているというわけで、国及び北海道はこれを全力で応援しているようでもあった。
なにより、離婚率も減少傾向にあるらしい。
そして、今、奏はその現象の一端をこうして目の当たりに見ているというわけだ。
もう、あの時、守ってくれた真壁秋は、雪華にとってはすっかり王子様的存在になってしまっているのだ。
「はいはい、良かったね、お、東雲先輩も一緒じゃん、これはいいなあ、先輩からも技とかもらえないかなあ」
と、幸せ舞い飛ぶ雪華をぞんざいに扱う相馬奏だ。