閑話休題1ー32【浅階層の一番長い日】
迷いと同時に鼻を付く血の匂い、そして、じんわりと汗に染み渡るジャージに傷ついた肉体を横たえる真壁秋の体の重さを実感する、そして現実が目の前に戻ってきた。
「ああ、これが私のスキルだ」
理解した。確かにこれなら、この能力の一部でなら真壁秋を助けられる。
これは、構築のスキル。回復スキルではなかった。つまりヒーラーのスキルなどではい。
おそらくは、現段階において、唯一無二の能力。
生き物の体を破壊し、構築し、改造を加える能力、強いてこのスキルに名をつけるなら。『メディック』ヒーラーに似て否なる力。ヒーラーが魔法という名の奇跡の力だとしたら、メディックは、物理に作用する具体的な対処である。触れる事で、雪華から治療を目的とする因子をばら撒き、対象箇所を余す事なく頭の中に映像化し、そこで操作する。
もちろん、この能力について雪華は得たばかりで、今後のスキル能力の向上の上ではこれから多くの経験が必要になってくるだろう。つまり今の時点てはあまり大きな力は使えないという事だ。
その後、他の魔法スキルの一部の者のように、『請負頭』すら召喚できるようになる雪華は後に、『歩く総合病院』とか、『1人階層なき医師団』などと言われるようになる。
そう、小さな力のみ使用が可能になる。その小さな力が、今、倒れている真壁秋に作用する。雪華の膨大な医学の知識を持って、小さく、細かく働き始める。
引きちぎられた腕の中で致命的なダメージを与えられていう大きな血管の縫合、そして各痛覚点を麻痺、痛みを消す。大気よりより集めて造血する。本当に雑な処置だった。確かに雪華に眠るスキルを必要とするわけだ。
ひとまず雪華は、真壁秋の腕と、肩からの傷口を処置して、ホッとしていたところ、現状況は終了して、そのまま麻酔が効いて眠りに落ちて真壁秋は鏡界の海らギルドへを運ばれていった。
「誰か、アッキーの腕持って!」
との真希の声に雪華が「はい」と返事をして、抱きかかえ後をおった。
狂王の大怪我によって後に、『浅階層の一番長い日』と語り継がれる攻防は一応、狂王やつっけて、愚王を追い返したみたいな形で幕を閉じる。
もちろん、誰もが納得の終わり方ではない。
遺恨を残すものも確かにいる。
その後、保健室からフラフラになった真壁秋が、東雲春夏に連れられて無事に家路に着くことを確認した頃、奏もちょうど目をまさいて、
「あれ、どうなったの?」
などと間抜けた事を聞いてきた。
今日あった出来事をどこまで話せばいいやら、雪華は迷う。
それでも、ひとまず家路につこうと、
「帰ってから話すから、ひとまず帰ろうよ奏」
と4丁目ゲートに背を向けて、歩き始めようとした時に、
「いや、それはいいんだけどさ」
と歯切れが悪い。
「どうしたのよ?」
「うん、それはいいんだけど、その子誰?」
と雪華の腰のあたりを指差す。
「せっちゃん、あたし、今日はゴブリン鍋がいい」
と上目遣いで、マモンが言った。
「えー、と、なんか、こう、神様みたいな子」
「へーそうか、じゃあお供えしないとな、ゴブリン鍋」
どうやってお父さんに相談しよう。
長い夜の始まりである事を自覚しつつ、ひとまずお父さんに迎えにきてもらおうと思う雪華だった。
何はともあれ、こうして誰にとっても浅階層の一番長い日は終わりを告げたのであった。