閑話休題1-31【医療という名のスキル】
何を言われているのか、全く理解ができない。もそれでも覚悟を決める雪華である。
「言い方を代えますね、あなたは、今の時点で真壁秋を救うことが可能なスキルの習得を望みますか?」
「え?」
一瞬、耳を疑ってしまうほどのずいぶんと具体的な提案だ。
「いらないんですか?」
迷うというより戸惑う雪華に、アモンは尋ねる。
「貰えるんですか?」
「はい、差し上げられます」
雪華は思う、ああ、これは夢だな、今、夢を見ているんだ。そう合点が行く雪華だ。
「夢ではありませんが、確かに現実でもありません、だからと言って、この提案は幻の類の相談ではないのです、本来潜るべき様々な様式的な儀式を短略化して、この双方がメリットがある提案は、あなたの返事次第で履行できます」
「もし、仮に、私がスキルを頂けるとして、代償はなんですか?」
さすがに現代ッ子な雪華だ、彼女がよく知るパターンとして、『魂』と言う交換条件とかが有名なのだが、その場合、今の時点で彼女はどうなるか、その辺が気になった。もちろん彼女の心理は応じる気でいる、自分を助けてくれた真壁秋を救うためなら、多少のデメリットは覚悟している雪華だ。
すると、アモンは少し考え込む。
そして、
「あの、河岸雪華様、少々、姿勢、姿、物言いを砕いてよろしいですか?」
雪華にとって、アモンが何を言っているか全く理解できない。
「ありがとうございます、無言を持って、回答と代えさせていただきます」
と言ってから、
「じゃあ、はっきりいうね、雪華が支払う代償らしいものは何もないよ、それでも強いていうなら、あたし、マモンを信仰する事だけ、あ、ドン引きしないで、信仰って言っても、あたしが、雪華と喧嘩になっちゃっても、それは別の話だからさスキルを使う時に、『マモンの名において』とか『マモンちゃんお願い』でもいいんだから、なんとなくあたしの名を思う程度で、あたしに与えられているこの世界の一部の、ダンジョンの力は使えるからね」
アモンの言葉を聞いて、雪華が唯一出せた言葉は、
「え?」
という短い言葉だけだ。
アモンの姿はどんどん小さくなって行く、そして、まるで小学校低学年程度の女子の姿になる。
「こっち、こっち、これが本当、今までは、『馬鹿』用なんだ」
「アモンさんですよね?」
もう驚き疲れた雪華だ。今日、このダンジョンに入ってから何ど度肝を抜かれただろう。彼女の驚きを司る心の一部は完全に麻痺してしまった様だった。お互いにとって好都合でもある。
「本当は『マモン』でもあの馬鹿はちっとも覚えてくれなくて、たった三文字だよ、信じられないよね、数もまともに数えられないし、ほんと馬鹿」
「ごめんなさい、私、話についていけないです、マモンさんが何を言っているのか、全く理解できません」
アモンは、マモンの姿に戻って、小さい体で腕組みをして、深いため息を付く。
「あたしたち、『三柱神』はさ、それぞれリソースの中心として、1人の『王』を持つんだ、あたしにとってはあの馬鹿、宝がそうだ、一応あれでもそれなりの資質と才能を持っているやつなんだよ、残念な方が多いけどさ、あ、真壁秋も、ギルドの方にもそれぞれ柱神はいるからね、でさ、その王を作る上で、私たちもそれなりに『信用』を得るべく姿を変えるんだよ、まあ、あいつの場合、親族と呼べるものがいないからさ、好みもなにもないんだけどね、歳は16で固定してるけど、決して姉ではない」
と言ってから、
「あ」
とマモンは何かに気がつくように言った。
「『狂王』ちょっとまずいかも」
「また何かあったんですが?」
「いやあ、だって氷漬けにしただけだからさ、今、痛みとかのストレスでかなりやばい事になっている感じ、最悪死ぬかも」
「やります、マモンさん、いえ、マモン様、私に真壁秋さんを救うスキルを下さい」
「わかった、じゃあ行くよ」
そういうと、マモンは雪華の中に飛び込んで行った。正面から、雪華の体に解けるように染み渡って行く。
「同期は完了したよ、意識を戻すよ、体を意識したら能力を開示して瞬時に理解したら使用可能だよ」
まるで空から聴こえてくるようなマモンの声、
「はい、マモン様」
「あと、これだけはお願いするよ」
何かしらのリスクの事だと雪華に緊張が走る。
「あたしの事は『マモちゃん』と呼んで、で、あたしは、『せっちゃん』って呼ぶけどいいよね」
「え? はあ、え?」
もう、何がなんだかの雪華である。