閑話休題1-30【ダンジョンギフト 新たなるスキルの解放】
さすがにこの状況なら、もう1人の和子の場所まで運ぶしかない、ダンジョン内などちんたら歩いている時間はない、全解放で1階まで岩盤を貫いて進むしかないかと意識を膨らませる真希に対して、
「ここは『状況』ですよ、『運営』のまして規格外の出るまくはありません」
「そして、落ち着きなさい、それは『春夏』の感情です、あなたが契約を反故にしてどうするのですか?」
ともう一人、心が張り裂けんばかりに心配する人物に告げた。
「適任者もいます、『狂王』は大丈夫です、ひとまず処理します」
次々と告げて、アモンは真希と東雲春夏の前を通り過ぎた。
瞬く間に、真壁秋の腕からの出血は止まり、右半身が氷漬けにされた。
「荒っぽいなあ」
と思わず呟く真希だ。
「大丈夫ですか? ごめんなさい私、大丈夫ですか!?」
「よかった、無事だね、ごめんね、急に」
と真壁秋は自分が抱きかかえた、今はもたれかかっている雪華に呟く。
どう見ても、そちらが心配する様な様ではないのであるが、こんな時にも周りを気遣うのが彼らしいと言えた。
とは言う物の、雪華の声など、真壁秋には届いてはいない、痛みと衝撃で意識が混濁しているかの様でもあった。
きゃあきゃあ叫ぶ雪華は、半身が氷漬けにされた真壁秋にパニックに陥りながらも、話しかけ続ける。今の段階での意識の消失は危険だと思ったからだ。
「私、河岸雪華です、こっちは相馬奏です、助けてくれてありがとうございました、真壁秋さんですよね、初めまして、私、河岸雪華です!」
と叫び続ける雪華に、アモンは尋ねる。
「彼を助けたいですか?」
「もちろん、当たり前です、助けてください」
「では、神殿に参りましょう、こちらにどうぞ」
とアモンが告げる。
その言葉を後から認識して、思わず「神殿」と聞き返していた時には、雪華はすでに神殿にいた。
今、さっきまで自分は間違いなく北海道ダンジョンの地下5階の鏡界の海にいて、ぐったりする真壁秋とスヤスヤ眠る奏を抱きかかえていたはずだ。
それが、今は見渡す限りの神殿にいる。
ここは神殿だ、誰がどう見ても、まごう事なく神殿だ。
そして、その前の神様の位置にはあのアモンがいる。先ほどの宝がそう呼んでいた、少なくとも人の名前などではない、雪華の知る限りそれは聖書に出てくる7っつの大罪の一つを司る悪魔の名前。不吉な名前だと、思わず身構えてしまうのではあるが、この場所の効果なのだろうか、先ほどまでの彼女とは打って変わってとても神々しく感じてしまう雪華だ。
でも、
「どうして? ここは何処です、私、一体どうなっているの、2人は無事ですか?」
との言葉に、女神の位置にいて、アモンは言う。
「落ち着きなさい、現時点では何も失われていません、ひとまず大丈夫、わかりますか、大丈夫です」
と、さして説明をするわけでもなく、そう繰り返す。
「でも、私、真壁秋さんが!」
「こういうところは心が落ち着くと思ったんですが、これならどうでしょう」
突然、周りの光景が入れ替えられる。今度は神殿ではなくて、どう言う訳か、神社仏閣の一部、鳥居の前にいた。ああ、ここ、北海道明治神宮だ。毎年欠かさず初詣に行っている雪華だ。今年は奏と一緒に行っている。
「あ、はれ? え、どうして?」
「ひとまず落ち着いた様ですね、やはり民族性における地場宗教というのは大事ですね学習させていただきました」
別に雪華は落ち着いたわけではない。風景の突然の切り替わりに、驚きに驚きが重なって、対象が別に切り替わっただけだ。
「では、本題に入ります、河岸雪華さん、あなたは『スキル』が欲しいですか?」
その言葉に、さすがに取り乱している雪華にではあったが、アモンの言葉に驚きを禁じ得なかった。
今ここに置かれている環境の把握に努める。
もちろん、そんなのできるわけもない。
だから、雪華はアモンに訪ねる。
「あの? ここ、北海道ダンジョンの中ですよね?」
アモンは、少なくとも自分の王である宝に久しく見せない満面の笑顔で、こう答える。
「はい、ここは北海道ダンジョンです、求めて準備をしていたあなたは、受け取る資格を有しています、どうしますか?」
もちろん、悩みなどしない。
それは雪華の願いでもあったのだから。
厳かに心を静めて、彼女はその場に一番適した答えを出すと決めていたのだ。
そして、やがて、それは伝説級になる事を、この少女は己の未来を知らないでいた。