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閑話休題1-29【裁かれない罪は苦しみ悶える】

 多分、普通の人間なら、傷ついた心は肉体を侵食して、少なくともその原因になった事に対して、逃げるように遠ざかる行動をとる。そして、一度、問題から離れて時間と機会を作って丁寧に傷を埋めてゆく作業になる。


 どこかで折り合いをつけて、再出発するのである。


 しかし、薫子の場合は、その強靭な精神が、それを許さず、まるで落ちてゆく水を両手で全て掬い取る化のように、この機会で自分の傷の補填に選ぶ。


 それに、薫子には、あの時、真壁秋に守らた時のイメージがあった。意外に軽いと思った。だからできると思ってしまったのも、大きな誤りの一つであった。


 あれは、宝が薫子用に放った一撃であり、今回は、あの真希用に放った一撃なのだ。


 種類というか、その攻撃を行う規模において違うことが、心を誂えようと、必死な薫子に気がつけるはずもなかった。


 そして、そんな身の程を弁えない彼女の行動と真理に逸早く気が付いた麻生が叫んだ。


 「ダメだ、喜耒くん!」


 「行けます、私だって、大丈夫です」


 時すでに遅く、その放たれた槍と真希さんの間に薫子が入った。


 この時、すっかり終わったと安心していた真壁秋の表情が変わる。そしてこれから起こるであろう何かに備えた。


 「馬鹿野郎!」


 そう叫んだのは誰でも無い、槍を投げた宝自身だ。


 そして、アモンは呟く。


 「本当に、人は見ていて飽きない……本当に愚かで救いようもなく愛おしい…… 」


 と、宝すら未だ視認したことのない笑顔でその様子を見つめていた。


 そして、引き起こされる爆発。


 薫子によって、受け止めきれなかった、宝とバーゲストの力は最悪な形で解放される。


 その規格外に長い武器は、まるで鏡海の間の広さなど忘れたように縦横無尽に飛び回り、尾の鎖の罪を許す。


 鎖は砕け、喜びにむせぶように、縦横無尽に室内を飛び回る。まるで、それは跳弾のように、速度においては跳弾など軽く上回る速度で、音を後ろに連れて飛び回っている。


 その攻撃力の拡散によって、誰一人動けない最悪な展開の中、麻生の指示によって、姿勢を低くしてかろうじて安全を保てる位置に集まる。つまりは真希いるあたり、なんとか、真希が直撃しそうな気配の鎖の粒を叩き落とすという器用な防御でほとんどの人間を守っていた。


 真希からしてみれば、今回のこの事案は、薫子にとっては少し容量がすぎたのかもしれない。


 と言っても、今回の出来事自体、概ねの検討はついているものの、偶発的に起こったにしては奇跡掛り過ぎている、それに真壁秋の方にしても、あの超過保護な2人が、今回の事件の介入を許すとはとても思えないと思っていた自分を少し悔やむ真希ではあった。確かに、これはいい機会だと思う。


 自分が何をされて、何を身につけて、どの様な人間になっているのか、真壁秋にとってはそれらをすり合わせるちょうどいい機会として選ばれた訳だ。


 結構な荒療治、なんのかんの言っても、あいつらも結構焦っているのかもしれないと、真希は思う。


 というか、それは完全に真壁秋の力を見誤っていたという事に他ならない事に若干のイラつきすら感じている。それは決して他に向けられるものではくて、真希自身の内側に向いた感情に他ならなかった。


 「あ、やばい、槍がくる」


 と真希は悟る。そして、そのコンマ何秒後にそのハーゲストの行く末が、救護班の女の子たちに向かうのを予想できた。


 こっちは、鎖の質量は速度が緩和されてきているので、まあ、精々当たっても、打撲程度、ただ、小さく欠けてしまった鎖の中に、弾丸の様な動きをしているものに関しては何個か払いのける。そして、偶然、槍が睡眠中の奏をかばっているその体に当たりそうな経線が真希に見えた。「おっと」と飛び出そうとした瞬間、目の前を何かが通り過ぎる。


 「なんだ、守ってくれるのかい」


 と真希は呟く。


 そして、自分の腕を一本犠牲にして、雪華を守る真壁秋。


 「うわちゃあ、下手くそ!」


 と思わず叫んでしまう。


 真壁秋本来の、膨大に鍛え上げられた技能なら、なんなく躱して、その女の子も守れただろうに、未だ自分の力をこのダンジョンの環境に最適化できていないのではと、こりゃあ、中階層あたりまで、その力に自信が持てないのかもしれないと、真希は思った。


 まあ、ゆっくりやるといいべさ。


 確かにお前の息子だよ。


 と、どこか誇らしげな真希でもある。

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