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閑話休題1-28 【解放するカタルシス『罪槍バーゲスト』】

 何より、今日の薫子はいつになく調子が良かった。いつも、練習をすれば必ず痛くなる膝も足首も、自分が弱いと思っている手首すら、まるで痛みがない、止まっているものに打ち込む程度でも痛む箇所が今日は全く調子がいい。そうどこも痛くはない。どこにも負担がかかっていない。そう、薫子の体には全くの負荷がないのだ。


 まさかとは思う、でも他が考えられない。


 「アッキーが下がっっていたのはふんわり、あんたの力任せの剣を受け止めていたからだよ、ようやく気がついたかい?」


 あり得ない。でも、真希の言葉を否定する材料も確かに見つからない。でもそれを否定したい薫子がいる。


 そんな薫子の心の錯綜から、現実に戻されたのは、あのクソ野郎の一言。


 「てめ! 真希、死ね!」


 薫子が見ると、どうやら、2人の王の決着はつかなかったようで、苦し紛れに、愚かな王が愚かな行為を仕掛けてきた。


 再びの愚行、あの王はまた、あの槍を放ってきたのだ。


 宝の放った一撃は、狙いすまされた、計算されつくされた一撃。


 これを防ぐことができるのは、真希のみ。まるで宛先を書いた手紙のように放ったレタ一な撃は、完全に真希専用として投げつけられたのである。きちんと申告の後に放っている。それを受け取らない真希でもない。


 ああ、あいつ、これで逃げる気だというのも見え見えだった。


 『罪槍バーゲスト』


  長い鎖の尾をもつこの黒碧の魔槍は、このダンジョンの中から人の武器として出現した『贈り物』の一つである。


 一応は一つの最強の槍と言われてはいるが、使いこなせば今回のように絶大な効果を発揮し、練度に応じて魔法スキルを凌駕するほどお瞬間殲滅力を持つのではあるが、その形状や方法、要領に一癖どころか百癖相当はあるので、実際というか事実上は使いこなせるものが存在せず、『贈り物』として眠る場所は判明していたもののなかなか所持しようとする者が現れなかった、いわゆる『ハズレ武器』としても名を馳せていた割と悲しい武器でもあった。


 宝はそんなバーゲストを完全に使いこなす技量のあるダンジョンウォーカーという訳なのである。ちなみそこまで使い熟せるようになるまでには相当な苦労を強いられた宝であった。


 そして、このお魔槍の本来の力も存分に引き出せる宝だ。

『黒き碧は、力を示すものの手により放たれ、追従する罪は歓喜によって解き放たれる』。


 この槍に添えられた一文を体現することが可能なのだ。


 そして今、その一撃が放たれたのだ。


 一直線に放たれた槍は、真希の手に受け止められることでその真価を発揮する。

確実に、まっすぐ宝の力を乗せて飛ぶ槍は、真希の手により速度を0にされ、飛ぶ慣性も速度もすべては力に変換され、槍の後ろをついてくる鎖は玉突きに衝突し砕け、その形に命じられるように、鎖の位置から真横に弾け飛ぶ、つまり受け止められた槍から先に鎖は飛ぶなどなく、真希の後ろにいれば確実な安全を確保されることになる。というよりも寧ろ、宝とアモンの方が危ない時もある。


 何が言いたいかというと、この攻撃は敵を安全に、使う人間の方に若干のリスクを背負う、逃走するための技なのである。


 そしてそれは、真希が受け止めることで成立する。


 もちろん、右往左往するギルドの構成員、その他の人間たちに被害が及ばないような配慮がされているのは言うまでもない。


 若干、位置的には真壁秋が危ない箇所にいる感じではあるが、宝からすれば、「こいつならなんとかするからいいや」とざっくりとした信頼があったので、その辺は気を使わず槍を放ったということになる。


 そして、真希にとって、というかある程度ギルドの仕事に従事している組合員にとっては、いつものパターンだと、今日の騒動はここまでだな、と家に帰る段取りとかを考えられるそんな合図でもある。


 しかし、それは、薫子にとって刻まれたばかりのトラウマがそれを許さない。

宝と秋によってズタズタにされたエリートとして壊れた心の復旧にこの機会を選んでしまった。


 そして、それはまさに最悪の試みでもあった。

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