閑話休題1-26 【5個目は、俺が相手だった事だ!】
自分の腕の中で寝息を立てる親友が、ここまで自分をぶつけられるなんてすごいと思った。そして同時に羨ましいとも、奏の満足感はしっかりと雪華にも伝わっていた。
だから自然にお礼の言葉、一言では尽くせないと感じながらも、声をかけてしまった。
「なんにもしてねーよ、そいつが勝手に満足しただけだ」
と言って、満更でもない顔を雪華から隠す様に前を向いた。
「じゃあ、今度は、アレと遊んでやろうかな」
と、なんとかラミアを送り返せた真壁 秋とその一行を見て呟く。
すると、アモンが。
「我が王よ、最後に1つ質問があるのですが」
「なんだよ」
「先ほど、王はこちらの剣士のお嬢さんに向かって、『問題点が5つ』と仰っていました」
「ああ、そうだ、目に余ったからな、さすがに」
「先ほどから、何度も王の物言いを思い出し、数えてみているのですが、王の指摘は4点でした、これは一体?」
「ああ!」
思わず叫ぶ宝に、
すかさず畳みかけるアモン。
「我が王よ、『数を数える』事は可能でしょうか? 仮に『4進法』を採用しての表現だとしても、その場合、5の表現が『11』となります、何度考えても、合点が行かず、この場合。、我が王は『1から4までの数すら満足に数えられないと』と言う結論にたどり着きます」
「いや、違う、そうじゃなくて」
「確かに恥ずかしいことかもしれません、生後僅か4年程度で習得するべき事項を未だ覚えていななど、全力で生き恥を晒している様なものです。しかしながら、このアモン、我が王がいかに愚かであろうと、誓う忠誠はゆるぎありません」
淡々と会話を続ける宝とアモンに、再びギルドの構成員達が包囲し、挑みかかってくる。
再び乱戦は開始される。
「ほら、あっちは安全だから、全力で行け、バカだが強いから、気をつけるっしょ」
「大丈夫、胸を借りるつもりで全力で行け、殺す気で行って構わん」
とギルドの幹部からのお墨付きで、安全に斬りかかってゆく構成員を捌きながら、
「言い間違いだ、違う、数を間違ったわけじゃない」
ちなみに、襲いかかるギルドの構成員達は、皆、宝狙いだ。たまにアモンを狙うも、ヒョイヒョイと避けられて、「ご存分いどうそ」と言われる始末である。
「この様な時こそ、ご自身の至らなさを受け止めるべきだと私は考えます、真摯なる反省を」
「本当に違う、5個目のセリフはちゃんと考えていたんだって、言おうとしていたんだ、マジ、本当に」
実際に、その言葉の前に、奏は疲労からの意識の消失、つまり深い眠りに入ってしまったわけだ。完全にその機会を逃してしまった宝だった。
しかし言うべき機会を逃した場合、とても恥ずかしい言葉ではないだろうかと、宝自身も気がついてしまう。言わなくてよかったのかもしれないと、宝は思う。
しかし、アモンは追従を緩めはしない。
「真摯なる反省を」
「だから、数を間違ったわけじゃあないって」
「素直に猛省を」
「だから、悪かったって、悪い、混乱させた、済まなかった」
「ちゃんと、ごめんなさい、と言いなさい」
「ごめんなさい」
「ああ、我が王よ、愚かな自己への反省の到、感謝いたします」
まるで鉄面皮の様な変わらぬ表情がホンの一瞬、頬を上気させ至上の喜びへと変わる。もちろん宝に、アモンはそんな表情は見せない。だから変わらないトーンの声の中に、それはまるで喜びに満ちている様に感じるのは決して気のせいではない。
彼女は今、全身を貫かれるほどの喜びに満ちている。自身が指名する王の失態と、その指摘。その喜びは彼女の存在意義そのものでもあった。
「我が王よ、帰ったら、算数の書き取り練習をしましょう、特に1〜5までに力を入れます、王をバカにする人間を見返しましょう」
「……はい」
言い出したら聞か無いアモンの行動と性能をよく知る宝は、彼女の提案に逆らうつもりもなく、ただ、淡々と、防御的な攻防を繰り返していた。