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閑話休題1-25【ご指導ありがとうございました!】

 一応の話はまとまったようで、じゃあ、武器を使わずにという話になって、宝は人差し指を。奏の胸骨のあたりに押し付ける。


 「これが、さっきのお前の突きだ、ここまでは良い、で剣が体内に入る」


 指を折って、拳を突き立てる事で、宝はそれを表現した。


 「で、ここで、お前、結構な魔法スキル持っているよな、だったらここで刃に攻撃魔法を乗せる、イメージとしてはここから魔法を発生させるような感じだ、それで、大抵はお終いになる」


 その説明を聞いて、納得する奏だ、せっかくある2つの異なるスキルを目くらましなどでも、攻撃補助でもなく、直接攻撃に同時使用する事で、効果的に攻撃力が加算できる事になる。


 もはやそうなると、先ほどの宝のように、剣を掴むなんて荒技は不可能になる。


 宝は続ける、


 「でもな、敵の中にも亜人的な奴は、俺たちと同じスキル形態の魔法を使ってくる厄介な奴もいる、その場合は間違いなく魔法は相殺される、そんな時にはこれだ」 


 宝は胸骨に押し当てた拳をそのまま裏返す。


 「『の』の字を書くようなイメージだな」


 それは、奏にとって理解できない、いまひとつピンと来ていない。


 「わかりません」


 「軽く『通す』、ちょっと覚悟しろ」


 「はい」


 宝にあからさまに緊張が走る。それは、攻撃の成否ではなくて、奏に判る様に奮うこの技が、彼女を傷つけない上で、わかりやすく体現できるかどうかに緊張しているのである。


 本来のこの技の効果は、斬撃で発生し、同時に圧殺を伴う。


 まるで大きな牙を持つ野獣の『噛砕(ゴウサイ)』。この技の名前でもあった。


 かつて、この北海道ダンジョンにおいて、最強を謳われた剣士が生み出した技で、多くこのダンジョンウォーカーの間にも伝えられている。宝はこの技を昇華し、使いやすく変えたもので、それを人に伝えるのは初めてだった。


 もちろん、これはスキルなどではない。このダンジョンが出来てから綿々と繋がれて来た剣の技術の大成の1つなのである。


 宝の拳から打ちはなてれた力は奏の胸から、背中に抜けて消える。


 僅かに加えられた力は、奏での体内を通ったと言うことが判る程度に軽減されて、なんら影響を与えていない事を確認した上で、ホッとする宝だったりする。


 「見えました。確かに感じましたよ、師匠!」


 気が付くと、この状態になってもなお、彩眼を出している奏である。絶対に見逃さないという強い意志の表れでもあった。


 そして、この技は、この後、彼女の代名詞とまで言われるようになるのであるが、それはまた別の話。


 と大喜びした後、糸の切れた人形の様に崩れるたおれる奏に、


 「きゃあ、奏!」


 と抱きかかえるのは先ほどから事の成り行きを心配そうに見ていた雪華だった。


 「おい、大丈夫か!」


 と宝が叫ぶも、


 「感覚系スキルの使用過多による脳疲労からの意識の消失です、2時間ほどの仮眠で回復するでしょう」


 冷静に告げるのはアモンだ。


 割と焦っていた宝ではあったが、雪華に抱かれて、満足気に寝息を立てている奏を見て、ホッとする。


 「そっちの方はどうなってる?」


 「先ほど、ゲートが開かれ、最下層に送られた様です、中階層のゲートの消失まで残り3分、各入口設けた結界の消失まで、ほぼ同じ時間です」


 一応、このダンジョンの入り口に結界を張った宝だ。


 今、こうしている現状、それなりの能力のある人間しか、ダンジョン内には立ち入れない様になっている。


 そう考えると、宝が一瞬で蹴散らした、短髪男子を含む3人組もそれなりの能力があるダンジョンウォーカーということになる。


 「そうか、もう少し時間稼ぎが必要になるかと思ったが、タイムラグは3分くらいか、丁度よかったな」


 なんか、ベストのタイミングで物事が回っている感じが、宝からそんな言葉を漏らさせていた。


 「はい、『クズ』がお嬢さんを相手にクズクズしている間に、時間は良い形で経過してくれました」


 背にしたアモンからそんな言葉を受け取った宝は、振り向いて、


 「え? 今、お前、俺をクズって言った?」


 と尋ねる。


 それは怒っていると言う風ではなくて、通りすがりの猫に、普通に言葉をかけられたくらいの驚きである。一般に猫は喋らないので、大抵の人は驚くことだろう。


 今のアモンは宝にとって、人の形はとっているものの、最低限度の受け答えと、方向を与えてくれる指針、奇跡の現身そのものなのだ。感情など伝えて来るはずもないのだ。少なくともそう思っていた。だからアモンはこう答える。 


 「いえ」


 と短めの否定の後に、


 「我が王よ、あなたとの関係において、私はそのような態度、言葉、表現をとる事は契約上不可能です、まして、あなたを『クズ』呼ばわりするなどあり得るはずもありません」


 清々とした言葉に、宝も、


 「だよな、そうだな、気のせいか、空耳だよな、ああびっくりした」


 「しっかりしてください、ク… 我が王よ」


 混乱する宝とアモンの会話に割って入るのは、雪華だった。


 「あの!」


 その場を颯爽と立ち去ろうとする宝に声をかける。


 「なんだよ、文句でもあんのかよ」


 と宝、しかし、奏を抱いたまま雪華は言う。


 「ありがとうございました」


 そう言うのが精一杯の雪華だ。


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