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閑話休題1-21【強い人来たーーー!!】

 乱暴で適当に振り回される槍に、あの、短髪で生意気な少年がどんどん追い詰められている。


 そして、暴れ回る正体不明な存在は、執拗に彼を追い、逃しはしない。


 正確にはその他2名も同時に相手をされて、同じような目に遭っている。


 「誰? あの人?」


 「氷が、嵐が、愚か者の王様が、大変だよ!」


 と自分を支えている雪華の説明も今ひとつままならない。


 どうやら、自分の意識が、思い出したくもない過去に還っていた時、このギルドの敵が増えたと言う認識で良いようだ。


 「お前の相手は私だ」


 薫子が出る。


 と、男の子3人組を一方的に翻弄するその人は、


 「ああ、いいぜ、暇だしな」


 と、ざっくりした物言いで、今度は薫子に襲いかかって行き、彼の一撃でそれを受け止めた薫子がふらつくと、「つまんねえ」と呟いて、麻生に襲いかかって行く節操のなさであった。


 「あれ? バカ王子は?」


 そういえば、今、この喧騒の中にはいない。一体、どこに行ったのだろう? と鏡界の海を見わたそうとした瞬間、


 「それに気づくんじゃあねーよ」


 いきなり、奏に襲いかかって来る。


 「うわ」


 と、思わず、雪華を突き飛ばして、腰にしていた木の剣で受けてしまう。


 「しまった!」


 横薙ぎに振るわれる槍の前に、細身の木剣が受け止められるはずもなく、真っ二つ、自分はともかく雪華にまでこの槍の攻撃が届く、と思いきや、その槍は彼女のかざした剣で止まる。


 傍目に見るなら、木剣が槍の一撃を凌いだみたいに見える。


 でも違う。


 止まったんだ。この槍、止めたんだ、この人。


 奏の寝起きみたいな思考は、まるで雲が晴れるように明瞭になって行く。


 忘れていた、挑むという全身を貫くような気持ち。


 この人、強い。


 たぶん、私の今じゃかなわない。


 でも、こうしてここに、私のところ、手の届くところに来てくれた。


 肌が泡立つ感覚がした。

 

 最高だ、北海道ダンジョン。


 奏はそう思った。


 たぶん、無意識だったと思う。


 奏の、かつてのアスリートとしての本能が、体が、その強者へと向かう。


 「奏! やめてください、奏!」


 雪華は珍しく我を忘れた様に叫んだ。彼女にしてみれば、友人が襲われているのだ、しかも、これだけの人数を相手に戦っている人間。先ほどの凌いで防戦していただけの真壁 秋とは違い、この男のタチの悪さを感じているから、必死にもなる。


 奏と、この愚かな王を引き離そうと必死な雪華。


 そして槍を、奏の木剣に押し当てたまま、『愚王』こと、前住(まえずみ) (たから)は言った。


 「なんだよ、ひよっこかよ」


 「ひよっこだべ」


 といつの間にか、工藤 真希がそこにいた。


 「工藤さん、止めてください! 奏が」 


 と泣きつく雪華。


 「いやあ、私たちが積極的に参加すると、アレが出るべ、そうなると、もっと大事になってしまうからさ」


 と、今ひとつ歯切れが悪い。


 そう言う視線の先には、アレと呼ばれるアモンがいる。彼女は深い緑のフードを目深にかけて、まるで木石の様にこの喧騒の中に佇んでいる。


 その人物を見た奏は、悟る。


 ああ、ここにも『透明』な、このダンジョンと色を同じくする者がいた。彼女、アモンを見ていてわかった。透明に見えたあの人物たちは、この世界、つまりダンジョンと同じ色をして、まるでそこから区分けされる様に輪郭だけが存在しているかの様に見えたのだ。


 わずかに開かせた『彩眼』で見たアモンは、まるで人という気がしなかった。まるでダンジョンの一部がちぎれて、人の形をしている様だと、奏は感じた。危険という感じではない、それでも、この正体不明の存在に警戒はする。


 「雪華、それに近づかないで、なるべく工藤さんのそばにいて!」


 と叫ぶ、


 「おおお?」


 と自分に槍を押し当てている、この愚王の顔をジッと見る奏。


 「お前、見えるのかよ?」


 「はい、見えます」


 「そうか、じゃあ、アレが何かわかるんだな?」


 その問いに対して、奏は首を横に降って、


 「わかりません、教えてもらえますか?」


 すると、宝は大笑いして、


 「ハハ、それを教えちまうと、俺の苦労はなんなんだよって事になるだろ? 俺も、ここまでたどり着くのは相当苦労したんだ、お前も苦労しろよ」


 そう言われた奏は、全くもってその通りだと思った。


 一瞬でも、労もせず簡単に答えにたどり着こうとした自分が小さく卑怯で矮小な存在に思えた。


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