閑話休題1-18【今と過去が混ざり始める】
浅い海の水をバシャバシャと跳ねさせながら、今にも倒れそうな奏に雪華は駆け寄る。
「どうしたの?」
キリキリとした頭痛に襲わらながら、あの瞬間に捉えたえ、大勢の中にどう考えてもありえないモノが写っていた。
「変な色が混ざって見えた、こんな事初めてだ、色の無い奴がいる」
雪華は彼女の言葉もそうだが、頭痛に顔を歪める奏の方を心配した。
その時、奏でのみたものは『透明色』とでも言うのだろうか? 全く色のない者たちが、きっかり4つ写っていた。
1つはあのラミアという巨大なモンスター。その大きさからすぐにわかった。
でも、残りの3つは間違いなく、人の中に混じっている、というかあの中にいる誰かだ。もう一度確認しようと、本能で閉じる事を命じる目を無理やり見開いて、ざわめく人の群を見つめようとした瞬間、奏は、足元から浮き上がるような、そんな圧力を視界から感じた。
「なんだ?」
見ようと思った方も見ず、そして、自身を襲っていた頭痛も忘れて、奏は足元を見つめる。
「ちょっと、奏大丈夫なの?」
奏のその行動に異常を悟った雪華は訪ねる。
そんな、雪華など目に入らない。
今、奏は、奏の視界は、例えよう無い巨大な存在感を持つ色によって支配されていた。
それは、見ている本人しか理解できない、言いようがない色。例えようのない色、そして表現しがたい色が、一直線にこの場に向かってつ突き進んで来る。
その色をあえて誰かに伝えようと思うなら。『黒』と表現するしかないだろう。でも違うのだ。実際はすべての色を含んだ混合色、それはまるで闇のような奥行きを持った黒と言うしかない。
「やばい、来る!」
奏は雪華を抱えこむよう守る。
そして、新たに『響眼』を開く。
音の軌跡すら見ることができるか目は、すでに彼女たちの目の前を通り過ぎていた軌跡だけが映る。正確には奏が雪華を守ろうとした時には全てが終わっていた。
経過した時間が視界になって、それを奏に教えてくれる。
もう、ここにいない。
奏は、音の軌跡を追って視線を走らせる。すぐにそれは捉えられる。
その全てを包括する『黒』は、真壁 秋の懐に入って、こう言った。
「おはよう、アッキー」
「今、朝なんですかね? なんか時間の感覚がなくて」
「私は、その日最初に会った人には『おはよう』を言うんだよ」
おそらくは現時点におけるギルドの最高戦力。曰く『歩く北海道弁』『スライムの森のアイドル』『全校修学旅行男子の憧れ』『北海道ダンジョン観光大使』『1円玉の全力回収人』『デリカシーブレイカー』『ボコる広報』等々、様々な字名持つ、ギルドの最高幹部、そう称される工藤 真希が登場した。
そして、この後、北海道ダンジョンに幾世にも伝わる事件。
『王たちの饗宴』が開始されるのである。
目の前に展開される、かつてない世界。
痛めた目のまま、その光景を見ていた奏は、どうしてだろう、こんな時なのに、自分の過去を、すぐそこにある近くて、決して帰ることのできないかつての自分を思い出していた。
今の頭痛と目の痛み、それを理不尽と受け取る奏は、未だ過去に両親を裏切ってしまったあの瞬間に縛られているのかもしれないと、思った。
うめくような呟きに、
「全部私の所為なんだ」
という言葉が混じって、落ち込む心は、当時を思い出して、また泣きたくなった。