閑話休題1-17【眼に映るはずのない者達】
挑発的な目の奏でに、短髪の男子が食ってかかる。
「どう見ても姫さまの勝ちだよ、見ろよ、押されて下がってるだろ」
すると、奏は、ツカツカとその短髪少年の方に歩みより、自分の目を指差し、
「私のスキルは目だ」
びっくりするくらい大きな声で、短髪男子に挑み掛かる。
「この目には見えるんだよ、力が、殺意が、あの剣の軌道も、あの弾ける瞬間の力も、全部見えるんだよ。あんたの言う姫様の全力の『赤』をあのバカ王子は限りなく白に近い『青』で受け止めているんだ。それに僅かに『朱』が挿すだけで、あんたの言う姫さまってのは真っ二つだよ、決まりなんだよ。あのバカ王子の気持ち次第だけど、あのバカ王子の気持ち黄色の混じった青、つまり、本人は敵対しているつもりもなく、女王様に向かう気持ちに好奇心はあるが、攻撃の意思は皆無なだけだ、つまり、あんたちのお姫様は、あのバカ王子によって生かされているんだよ」
一気に捲し立てられる短髪男子は思わずたじろぐ。
腰が引けた所でさらに奏では続ける。
「それに、先に言っといてやる、お前の『錆びた色みたいな』スキルと覚悟じゃ、この先通用しないぞ、怖いのを『怖い』って言えない人間は私の雪華を見習え」
と言い捨てて、雪華の元へ戻ってくる。
その雪華に、奏はちょっと怒れれてしまう。
「最後の余計」
「ごめん、つい、だってあんまりだろ、あいつさっきから」
と未だ怒りを保持したままだ。実際、奏は怒っている。あの2人の王の戦いの行方の事でなく、最初の段階で、自分がもっとも信頼し尊敬する友人が軽んじられた事に怒りがなかなか治らない。
「大丈夫? なんで、こんな事で、『五眼』を開いちゃうのよ、前みたいに頭痛くなってない?」
と、怒る原因の友人に心配されているから、カッコがつかないと、苦笑いの奏だったりする。
「ほんと、つまらないことで『彩眼』使っちゃったよ」
奏自身もその事を自覚しているようだ。そして、
「この『彩眼』開くと、しばらく開きっぱになっちゃうからな、あ、雪華『木蘭色』だ、心配かけてごめん」
奏の目のスキルの中でも、割と軽く扱える『彩眼』は、目に映る情報をすべて色で見ることができる。
目への負担は大したことはないのであるが、問題はその視界に写るものを一度彼女の脳で処理をしないといけないので、見た数に応じて、頭の方にそれなりの負担が行くことになる。
目を閉じて、手で覆う瞬間、唐突に王の戦いは終わっていた。
彼女たちから離れた人のコロシアムからの騒めき、麻生が何を話している。
その様子を思わず、『彩眼』を保持したまま見つめてしまう、その人数の様々な色を視界に入れてしまった。
「しまった」
その『彩眼』て捉えたれたものは情報として、奏の頭脳で自動的に処理される。完全なキャパオーバー、あの頭痛が来る。参ったなあ、と思う奏が、自分の意思とは関係なく、一瞬見たものが脳内で結実した時、思わず、
「あれ?」
と呟やいた。
なんだあれ?
見たことのない光景、見たことのない世界。
そんなものが、奏での眼前に広がっていたのだ。