閑話休題1-16【拮抗する王たちの戦】
戦況は、やや薫子に有利に働いてる様に見える。
見た目には、責める薫子に、下がる真壁秋に見えるからだ。
しかし遠目にしてよく見ると、確かに真壁秋は下がっている様に思えるが、実際は、小さなサークルを作る様に、限られてた領域を、小さく利用して、回す事はあっても、その範囲を変えずに音の割には、フンワリと薫子の剣を受けている。
端から見ると、薫子の持つカシナートや構え、攻撃する姿の方が大きいので、やや押しているかのようにも見えないこともない。
雪華の知る知識では、薫子は強い。
このダンジョンに入ってわずか一日で深階層までたどり着く実力者である。
そして、何より、あの頼りになる麻生もいる。そしてこの人数だ。
数の上の戦力差から言ってもどう考えてもこちらが一方的に押し込めると思って間違いないはずであるが、現状はどうだろう、たった数人、メインで戦っているのは3人で、その3人にこれだけの数の『黒の猟団』は敗れ、そして今もなお彼らの善戦は続いていた。
数名の裏切り者が出たところで、その力の差はそれほど変わらない筈とだと、雪華は思った。代表選にもつれ込んで以降、男の子たちは、安心して見ているようだが、雪華には、薫子がか勝つというイメージが全くわかないのである。
そして、奏がさっきらか、ずっと押し黙って、その戦いの行方を見守っているのも雪華にとっては異様だった。
こういう時は必ず、自分に話しかけてきて、ちょっかいを出してくる子が、それが『王の一騎打ち』になって以降、じっとその様子を見つめている。
そんな奏が不意に、雪華に話しかける。
「ねえ、女王様がやられたら、私が行ってもいいのかな?」
続けて、
「だって、この人たち、大したことなかったし、だから、私があのバカ王子と戦ってもいいんだよね?」
と言う奏に、雪華はそれをやんわりと否定する。
「でも、もし彼が勝ったとしたら、代表戦だから、この戦いは終了して、彼らの意向が叶えられると思うんだけど」
特にその約束を反故にするなんて、あの麻生がする筈がないのである。
「えー、そんなのヤだよ、私もあの子と戦いたい」
言っている事は物騒であるが、奏のその言い様と仕草は、初めて目にしたオモチャで遊びたがる子供の姿そのものであった。
「ねえ、そうだよね、戦いたいよね?」
と他の男の子供達に同意を求めるも、良い反応は帰って来ない。普通に考えればそうだ。
斬り合いなんて誰もがごめんだろう。
これは、剣を使った戦いであって、決して遊んでいるわけでも、スポーツを楽しんでいるわけでも無い、殺傷し合っている。お互いがお互いを積極的に傷つけ合い、最悪、死に至る戦いなのだ。
それを見て、嬉々として参加をしたいと言い出す奏は、確実に自分とは異質な存在だと雪華は思ってしまう。
むしろ、この尻込みしている男の子たちの方の気持ちに近い雪華であった。
ダンジョンには入る、ギルドの仕事もしたい。でもなるべくなら戦いは避けたいと思うのが普通の人の考え方だと思っていた。
しかし、奏は違った。
昨日まで、同じ価値観で同じ物を見て、同じ話で笑い合っていた彼女は、ダンジョンという名のフィルター越しに見ると、自分とは遠くかけ離れた存在ということに驚きを禁じ得ない。
日常生活とは遠くかけ離れた現状に身を置く事で雪華は思う。
私たちはかけ離れた存在なのだ。今の時点でこの離れてしまった距離を埋める方法を探してしまう雪華であるが、一方の奏はというと、
「なんかお腹減ったね」
と雪華の思いなど意にも介さず、至って普通に話してくるから、驚く雪華である。
いつもと変わらない、変わらなすぎる友人は、もう、この戦いが終わってしまったかのようにふるまい、気分的には日常に戻ってしまった感じがした。
彼女曰く。
「えー、だって、女王様じゃ、バカ王子に勝てっこないじゃん、もう決まりだよ、こんな戦い」
と結論をすでに見てしまったかのように言う。
そして、それは雪華も思っていた事だ。
それは、雪華の視点から見ても、同じ結論にたどり着く。
材質的に、カシナートではあの剣には勝てない。仮に2人の力が拮抗しているとすれば尚、剣としての性能に差が出る。でも、不思議なのは未だカシナートが刃こぼれ1つしていない事。これは薫子の技量だろうか? 正直、何が起こっているのかよくわからない雪華だ。
「お、気がついた?」
と、奏。
「うん、何か変、打ち合っているように見えるけど、違うよね」
「さすが、鍛冶屋の娘だね」
「わかっているんだったら教えてよ奏」
「あれね、バカ王子は打ち合いをしていないのよ、うまく弾いてインパクトを誤魔化しているだけ、女王様の方は打たされているだけ、あの剣のどこに力が乗っているのか、全部見えてる、決まりよ、こんな勝負」
と言う奏の言葉に食ってかかるのは、先ほどの短髪の男子だ。