閑話休題1-15【システム『SWORD WORLD』】
あのロングソードは、あの人の剣だ。
『大柴マテリアル』
重金属を取り扱う会社で日本最大手の会社。
それを悟る雪華の判断は間違ってはいない。
だが、冷静に考えるとあり得ないことだ。
あの剣が、市場に出回っているはずがないと雪華は思う。いや確信していた。
ありえない。
それにあの『剣』と言う名のシステムは未だ完成していない。もし完成の目を見ていたとしたらそれは雪華の知る所になるからだ。
だとしたら、あの真壁 秋の持つあの剣は、偽物だろうか?
いや違う。あの剣からは、打ち合い鳴らす音に輝きは本物の雰囲気、音色、重さ、質感が確かに漂っている。とすると、完成以前のプロトタイプ。そう考えるのが1番しっくり来る。
それが流通してしまったのだろうか?
確か、雪華が聞いた話では、あの剣は万能包丁でおなじみなダマスカス鋼の見た目を持つが、実は疑似金属、未だ正体もわからない、この世界に確立上存在があると定義されている、そんな素材が主材料、その正体不明の金属の価値だけでも同じ重さの金の倍以上と言われていて、成形の技術を加算すると、その価値は実際に取引する物がいるかどうかはさておき1億は下らないとされている。
剣事態が現代金属工学、素粒子、原子物理学、連続体力学、物性物理学、高分子化学、人間工学など数え上げたらきりがいないほどの分野の技術化学の結晶ともいえる剣、いや今の段階ではその到達の途中ではあるが、そういうものだという事を雪華はよく知っていた。
そして、その剣が、父の剣と2人の王によって打ち合われる姿に、雪華は運命じみた物を感じた。
互いが考える、剣の究極。
1つは、既に雪華の父の出した答え、カシナート。
そして、既存の剣、個人携帯用の銃を含む武器や兵器の能力を凌駕するべく、このダンジョンに入る全てのものを圧倒するために未だ研鑽を続ける未完成の、母の剣。
名を、『|SWORD WORLD』。
これは剣の名ではい。この剣を生みだす為のプロジェクト全体を母はそう呼んでいた。
剣のみで、スキルなど圧倒する破壊力を、例え魔法(等)が失われた世界でも、その剣の力で世界を(この場合ダンジョン)力の上での支配可能とする極めた暴力を生み出す劔。そんな剣を作るために、雪華の母親である彼女は家庭を離れて3年前から実家である本社に戻って、今日も研究を続けている。
本当に勝手な人だと、雪華は思う。
母の思想、「高き理想を現実にするものが、その全てに置いて義務を果たす」でも実際に犠牲になっているのは身近な人たちで、全くもって義務が聞いてあきれる無責任な母だと、雪華は思っている。
父だって甘すぎるのだ。少なくとも、河岸家にとって、少なからず、納得をしていない人間がいる事を忘れるなと、雪華は言いたい。
ちなみに、その剣のプロトタイプ(?)がどうして真壁 秋の手に渡ったかと言うと、さる人物が自分の立場を利用した完全なる横領による譲渡である。この持ち出された一振りは、現在、その性能のために『兵器』と分類され、防衛庁の管轄で重大に保管され監視されていた。後にそれは当事者を巻き込んでの大きな問題となるのであるが、それはまた別の話である。
そんな中、現在、薫子と真壁 秋の一騎打ちは続いている。
「さすが、喜耒さんだ、圧倒しているな」
と言うのは先ほどの短髪の男の子。
「これなら時間の問題だね、よかった、麻生さんたちがいればあのラミアを倒せそうだし」
とその横の小太りな男の子が言う。
すると、メガネをかけた小柄な男の子が、
「そうかな? なんか姫様負けそうだけど」
と言った。
ちなみに姫様というのは、薫子以降、ギルドの入った人たちの彼女の呼び名であった。ちなみにいまひとつ定着はしていなくて、一部でそう呼ばれているに過ぎない。特に男子はそう呼んでいるようだ。
「バカか、お前何見てるんだよ、どう見ても、姫様が圧勝だろ」
短髪少年の声に、メガネ少年はビクッとして、
「そ、そうなのかな、僕よくわからないよ」
と言った。
確かにここからではよくわからない。一見すると力は均衡しているように見える。お互い、有効な一撃は入っていおらず、剣の打ち合いが続いているようだ。
まるで、それは永遠に続くように、ただ打ち合いが続いているのだ。
それはこの浅い海の上で、互いをパートナーにダンスでも踊る様に、優しくて何処か安全で、戦いと呼ぶには、雪華にとっても違和感を覚える光景だった。