閑話休題1-14【王様の一騎打ち始まる】
この年頃の女子は男子よりも成長が早いと言われがちであるが、それを差し引いでも、体格の良い、といってもバランスの取れている薫子よりも、真壁秋の方がずいぶんと線が細く見えた。
女の子みたいに見えると言えば言いすぎなところはあるが、どちらかというとそれを見ている雪華との体格さの方が少なく見えた。
なにより薫子に対しては、やっぱり、と納得の雪華である。彼女とその王という名のスキルはピッタリだと確かに思った。どこか風格もある。
しかし真壁秋にはそれが全くない。
強さとか、風格とか、雰囲気とかも、その態度のせいもあるだろうが、どこから見ても自然でリラックスしている感じ。
こういう男子って、教室でもよく、いるなあ、一人でなにするわけもでもなくボーっと窓の外を見ている、そんな態度。
この剣の戦いにおいて、互いに命のやり合いをしているこの現状において、まるで、その深刻さを感じていないというかなんというか。
この真壁秋って子にとって、この北海道ダンジョンが自分の家みたいに思っているのだろうか?
そんな疑問というか疑惑というか、頭よりも心で感じている不思議さにも、雪華は驚いている。
そして、そんな雪華に、
「ねえ、どういう事、王様って、どっかの国の王様がお忍びで来ていたって事?」
なんとなく小声で、奏は雪華に尋ねる。
「王様って、クラスがあるみたいなの、結構特殊なスキル持ってる、それを持つ2人の代表戦にこの戦いが依存されたみたい」
「ああ、そうなんだ、まあ、あの人、本当、『女王』って感じだよね、偉そうだし」
多分、薫子の事を言っているんだと雪華は思った、さっきの一件の事をまだ根に持っている。そんな憎まれ口を叩く奏は、
「でも、あっちの真壁 秋、って王様って貫禄じゃあないよね、なんか王子って感じ? だって軽いもん」
とこちらには失礼な事を言う。
そうね、と言いかける雪華に、離れている真壁 秋と薫子との会話の一部であろう、その言葉が明瞭にに入ってい来る。
多分、薫子は「どうしてダンジョンに入っているのか?」と言う、彼の現在のここにいる目的を聞いたのだと思った。その問いに対する真壁 秋の答えは、
「そこにダンジョンがあるから」
だった。
「あれ、女王様を馬鹿にして言っているわけじゃあないよね」
と、奏に尋ねられる。
「うん」と答える雪華だ。
そう、あれは人を馬鹿にしているとか言う顔じゃあない。
真壁 秋本人が、言っていて、自身が出した答えに疑問を残している、そんな表情をしている。
そして、回答を受け取った薫子は、全く意に介さない、呆れた顔をして、質問の内容を変えてもう一度、真壁 秋に問う。
「あなたは一体何者なのですか?」
すると、真壁 秋は、
「僕はただのダンジョンウォーカーだよ」
と、答える。
多分、それは質問の意とは違うと思った。
例えるなら、ここは学園祭の準備で修羅場な教室の中、みんな手を休めず、口も聞かずに一生懸命に明日の学園祭に向けて皆が一様に頑張っている中、1人遊んでいる男の子に、委員長が言う。
「あなた何様なのよ?」と。
するとその男子生徒はこう答える。
「え? この学校の生徒だけど?」
そんなやりとりだ。
それは、委員長な薫子も呆れて言うだろう。
「わかりました、真壁 秋さん、あなたはバカなんですね」
面白いのは、その薫子の言葉に、真壁 秋がショックを受けている事だった。
「バカ王子」
とボソッと奏が呟き、思わず吹き出してしまう雪華だ。
「やめなさいよ」
と言う雪華に、
「あ、始まったよ」
薫子と、バカ王子呼ばわりされる真壁 秋の一騎打ちが幕をあける。
薫子の持つ武器は父の作ったカシナートで、しかも、生産型でなく、父の作った一品モノだ。その長剣が真壁 秋の細身のロングソードに受け止められている。
その武器の形状、と言うかフォルムはどこかで見た覚えがあった。
オーソドックスな父の剣とは違う、斬新で前衛的な形。
ずっと気にはなっていた。でも心の中でそれを否定してしまう。
雪華は、すでに答えを出していた。と言うよりも認めざるえを得なかった。